この2本の道路を完全に抑えれば、ロシア軍はバフムートのウクライナ軍の守備隊を実質的に孤立させることができる。昨春マリウポリで起きたような、多くの犠牲をともなう包囲から身を守るためには、守備隊は道が閉ざされる前に撤退すべきだ。
しかし、ウクライナ軍参謀本部はバフムートをあきらめる準備ができていない。参謀本部は3月2日「我が軍の守備隊はバフムートとクロモヴェ集落がある地域でロシア軍の攻撃を退けた」と報告した。また、ウクライナ国防省のハンナ・マリャル次官が1日に語ったところによると、ウクライナ軍はこの地域に補強の部隊を送り込んでいる。
この援軍には、ウクライナを支援する国々が供与を約束した数百両の装甲車の扱いの訓練を受けている大隊や旅団は含まれていないようだ。ウクライナに供与される装甲車は米国のM-2ブラッドレー歩兵戦闘車やスウェーデンのCV90戦闘車、英国の主力戦車チャレンジャー2、そしてドイツ、ポーランド、カナダなどが送る戦車レオパルト1とレオパルト2だ。
これらの部隊と供与される車両はウクライナが計画している春の攻勢のために確保されている。この攻勢はバフムートの戦いが終わると同時に始まる可能性がある。ウクライナ軍が攻勢をかけるとなったとき、バフムートの戦いは戦争の次の段階に向けた前兆となるかもしれない。
ボクシングの試合では、効果のないパンチを打たせて相手を消耗させるためにロープにもたれることがある。これは「ロープ・ア・ドープ」と呼ばれる戦法で、まさにウクライナ軍がバフムートで行っていたと思われるものだ。
以前にも同じようなことがあった。ウクライナ軍は昨夏、バフムートの北東約40キロにあるセベロドネツクとリシチャンスクの2つの都市で戦いながら撤退した。
セベロドネツクとリシチャンスクでの戦闘でウクライナ東部にいたロシア軍はひどく消耗し、8月末にウクライナ軍の旅団が強力な反攻を開始したとき、ロシア軍は持ちこたえることができないほど弱っていた。ロシア軍はウクライナ北東部のハルキウ周辺から撤退し、奪っていた数千平方マイルの領土を明け渡した。
バフムートからのウクライナ軍の撤退は、ウクライナ軍が反撃を始めればロシア軍の撤退を拡大させる可能性がある。
もちろん、それは避けられないことではない。バフムート、クレミンナ、ブフレダールで多くの兵力を失ったとはいえ、ウクライナにいるロシア軍は依然として強力な軍隊だ。優れた統率力があれば、ウクライナ軍の攻勢を打ち負かすことができるかもしれない。
しかし、ロシア軍には優れた統率力が完全に欠けているように見える。賢明な指揮官はウクライナの罠であることがかなり明白な戦闘で、価値の低い町1つを占領するために何千人もの兵士の命を無駄にしたりはしないだろう。
(forbes.com 原文)