北米

2023.03.03 10:45

米イーライリリー、インスリン薬を7割値下げ 価格高騰で患者の16%が投与制限

安井克至
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注目されるのは、ほかのインスリンメーカーが追随するかどうかだ。値下げしなければ市場でシェアを大きく落としかねないので、そうせざるを得なくなるかもしれない。患者側やPBM側がどう反応するかも興味深いところだ。

インスリンの価格高騰に対しては、米国の一般市民や民主、共和両党から批判が強まっていた(編集部注:カリフォルニア州など複数の州が、イーライリリーを含む製薬会社は市場支配力を使ってインスリン価格をつり上げているとして訴訟を起こしてもいる)。患者の自己負担が一貫して増えてきていることから、政界でもかねてホットな問題になっている。米国には、糖尿病のコントロールのためにインスリン製剤を必要とする患者が700万人以上いる。

イーライリリーは圧力に屈したということだろうか。そうかもしれない。ただ、同社にとっては、定価もリベート代も高い従来の路線を続けるよりも、定価を引き下げたほうが収益面で有利にはたらく可能性もある。実際、今回の値下げは、低所得者向け公的医療保険「メディケイド」市場で今後発生する負担を未然に回避する策とみることもできる。

いずれにせよ、インスリンの自己負担額が下がることは、この薬が欠かせない米国内の患者にとって大きな変化になるのは確かだ。糖尿病は適切にコントロールしなければ患者の命を脅かしかねない。この点で、2021年に米国の糖尿病患者を対象とした調査で、自己負担額が重いためにインスリンの投与を制限したと答えた人が16.5%もいたのは非常に気がかりだ。

長年の訴えや議論の末にようやく、インスリンを必要とする糖尿病患者が、医療保険に入っている人もそうでない人も、医療費負担の軽減で広く恩恵を受けられることになった。これが今回の値下げの最も重要な点だと言えるだろう。

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

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