経済

2023.03.03

アジア諸国が石油を購入し続けても、ロシア経済は救われない

Getty Images

インドが西側諸国に大きな影響力を持つ一方、パキスタンの米国にとっての戦略的価値は、2021年の米軍アフガニスタン撤退によって多くが失われた。そのパキスタンでさえ譲歩を引き出せるほど、ロシアの地政学的立場は弱い。パキスタン政府は1月、2億7400万ドル(約372億円)の財政節約が可能な新省エネ計画を発表し、ロシア産原油の高値での購入を公然と拒否した。パキスタンは安価な燃料を必要としているが、近隣に産油国が幾つもある立地からすれば、ロシアは数ある選択肢の1つにすぎない。

構造的な障害もある。パキスタンには、ロシア産原油を完全処理できる製油所のインフラ設備がない。また、ロシアは湾岸諸国を中心とする「友好国」の通貨での代金支払いをパキスタンに提案しているが、パキスタンの主要債権者は産油国のサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)であり、通貨基盤安定のため、今後もより高価な湾岸の軽質スイート原油を米ドル建てで購入し続けることをパキスタンに望むだろう。

パキスタンでもロシアに対抗できるのだから、中国がクレムリンとの交渉ですばらしい立場にあることは驚くに値しない。パンデミック後の回復を続ける中国向けに割引価格で輸出されるロシア産原油・燃料油は、記録的に急増している。インドに張り合うかのごとく、中国は1月、ロシアのウラル原油を1バレル=13ドル(約1800円)、エスポ原油を同8ドル(約1100円)という大幅な値引き価格で日量166万バレル輸入した。中国が昨年を通じて安価なロシア産原油の輸入に足踏みしていた主な理由は、クレムリンを公然と支持していると見られたくなかったためだ。

ロシアとアジア諸国との間でエネルギー協力が強化されているにもかかわらず、アジア市場におけるロシアの影響力はほぼゼロに近く、経済の安定と戦争の資金調達を同時に賄えるだけの長期的な輸出契約の締結に至っていない。クレムリンは日量700万バレルの石油輸出を続けているが、輸出額は1日当たり6億ドル(約816億円)から2億ドル(約272億円)まで暴落した。ドイツ銀行のエコノミストによると、プーチン大統領のウクライナ侵攻によりロシア経済は自滅しつつあり、ロシア政府の石油・ガスの輸出収入は、2021年初頭との比較で日額5億ドル(約680億円)の損失を出している。

ウクライナはロシア産原油の購入をめぐり、中国やインドへの制裁を強く求めている。欧米が制裁体制を尊重するようインドを説得できないのは、国際体制における亀裂の深まりと、インドに長期戦に臨む余裕があることを反映している。ロシア政府に協力するすべての国、特にインドなど対ロ貿易を行っている国のすべてに制裁を科すのは、地政学的な理由から実現が困難だ。しかし、明らかにクレムリンは米国、インド、中国に付け込まれている。インドと中国が上限をはるかに下回る価格でロシア産原油を購入している以上、西側の制裁はロシアの財政圧迫という意図した結果を達成できると言ってよいだろう。

forbes.com 原文

編集=荻原藤緒

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