北米

2023.03.02

米政権の「学生ローン帳消し」に暗雲、最高裁で懐疑的見方相次ぐ

米連邦最高裁前で、バイデン政権の学生ローン返済免除措置を認めるよう訴える人たち(Drew Angerer/Getty Images)

ジョー・バイデン米政権が打ち出した学生ローン返済の一部免除措置をめぐる訴訟の口頭弁論が2月28日、連邦最高裁で開かれ、多数派を占める保守派判事からは措置の合法性に疑問を投げかける発言が相次いだ。専門家からは、政府側の主張は退けられ、議会に判断が委ねられることになるとの見方が出ている。判決は6月末までに下される見通しだ。

口頭弁論は、バイデン政権の措置は権限を逸脱しているなどとして起こされた訴訟2件について実施された。一件は、学生ローンの免除はミズーリ州のローン提供業者に損害を与えかねないとして共和党優勢の6州が原告、もう一件は保守系団体の後押しを受ける学生ローンの借り手2人が原告となっている。

連邦政府の代表として弁論に臨んだエリザベス・プレロガー訟務長官は、新型コロナウイルス流行への対応でバイデン政権が学生ローンの返済を免除することは認められると主張。これに対して保守派のブレット・カバノー判事は「米国の歴史上最大の過ちの中には、行政権や緊急権を主張して行われたものがあった」との見解を示した。

プレロガーはバイデン政権の措置について、国家の非常事態時に連邦政府に対して学生ローンを調整する権限を与えた2003年の「HEROES(ヒーローズ)法」が法的根拠になっていると説明した。だが保守派のジョン・ロバーツ最高裁長官は「重要問題法理」と呼ばれる原則を持ち出し、バイデン政権がこれほど思い切った措置をとるには議会からより明確な同意を得る必要があったと指摘した。

一方、リベラル派の判事らは政権側の立場に理解を示した。エレーナ・ケーガン判事は、HEROES法には「適用範囲が非常に広い文言」が含まれているとしてプレロガーの主張を支持。ソニア・ソトマイヨール判事は、ローンの返済を免除されない人たちは「苦労するだろう」と同情を寄せ、保守派団体の支援を受ける原告が、自分が免除を受けられないからという理由で措置の廃止を求めているのは「まったく理が通らない」と述べた。

6州が起こした訴訟の弁論では、保守派のエイミー・バレット判事が、州側はなぜミズーリ州のローン提供業者に連邦政府を訴えさせなかったのかと述べ、これらの州が原告として適格なのかに疑問を呈した点も注目された。この業者はミズーリ州が設立している。

最高裁判事の現在の構成は保守派6人、リベラル派3人となっている。

これまでに2600万人が返済免除を申請

バイデン政権は昨年8月、年収12万5000ドル(約1700万円)未満の人を対象に、学生ローンを1人あたり1万ドル(約135万円)、低所得層向け奨学金「ペル・グラント」の受給者は2万ドル(約270万円)を免除すると発表した。同年10月に申請の受け付けが始まったが、数週間後に下級審が資金の支出を差し止めたため停止された。最高裁は昨年12月、訴訟2件について審理することを決めていた。

ミゲル・カルドナ教育長官は、受け付けが停止されるまでに、全米に4300万人いる免除対象者のうち、半数超にあたる2600万人が申請していたことを明らかにしている。

野党の共和党は、返済免除は「米国の納税者を虐げる近視眼的な解決策だ」などと批判し、反対を続けている。

forbes.com 原文

編集=江戸伸禎

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