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2023.03.02

宇宙産業は地球の問題解決の糸口となるか? 宇宙投資家に聞く

青木英剛 | グローバル・ブレイン Fellow, Chief of space Lab/宇宙工バンジェリス

2023年、世界はどのように変わっていくのか。Forbes JAPAN 2月号では、日本、そして世界で活躍するさまざまな業界のNo.1に「100の質問」を投げかけた。国際情勢、テクノロジー、ビジネス、金融などの分野で今年の変化予想を大公開。

今回はグローバル・ブレインにて宇宙関連スタートアップへの投資や宇宙エバンジェリストとしても活躍する青木英剛に聞いた。


Q. 日本は宇宙ビジネスでイニシアティブを取れますか? 宇宙産業は、地球の問題(環境問題等)の解決の糸口になる? 宇宙ビジネス参入にあたって必要とされる人材とは?

世界の宇宙産業市場は、2040年には現在の3倍、100兆円を超えると見込まれています。そんななか、日本のものづくりの強さがあらためて世界中で注目されています。高い技術力に裏打ちされた高品質のものを、円安の影響もあり低コストでつくることができる。インフレや部品の調達の難しさといった課題が多出するなか、自動車・電機部品業界で世界屈指の技術力をもっている日本にとって、宇宙業界は強みが出しやすい領域です。

家電や自動車と異なり、宇宙技術はコピーがしにくく他国にまねされにくいためです。ロケットの分野は欧米や中国に後れをとっている状況ではりますが、特に人工衛星の分野は日本の強みが顕著に出始めています。

また、宇宙業界では現在「スペースサステナビリティ(宇宙の持続可能性)」がキーワードで、国際会議でもホットなテーマです。日本は環境配慮のプロダクトを長年つくってきたという実績があります。宇宙ゴミの除去サービスを提供しているアストロスケールをはじめ、水を推進剤にした小型衛星用エンジンを開発しているPaleblueなど、高い技術力をもったスタートアップも注目されています。

宇宙環境を守るルールとしては、運用を終えた人工衛星は国際ガイドラインでは25年以内、米国においては2024年からは5年以内に大気圏へ再突入させて廃棄するという規則に変更となります。

ただ、宇宙ゴミや燃料に関してのルールはまだ十分ではありません。地球環境を守るルール作りは民間企業から自主的に始まっている流れで、これは宇宙においては新興の分野でもあるので今後拡大していくのではと思っています。

地球の環境問題と災害対策も、いまや宇宙の技術なしには解決できない状況です。人工衛星は、ドローンや航空写真では撮ることができない広範囲の写真を国境関係なく取得できる、いわば「神の目」をもっています。

人工衛星から地球を観測してデータを解析し、環境汚染や災害の前後の状況を政府機関や自治体などに提供する日本の企業も増えています。民間企業でも、特にグローバル企業で衛星データの利用が広がっています。

ユニリーバは、サプライチェーンが森林破壊に関与していないかを衛星データによりチェックし、投資家向けレポート等で発表しています。人工衛星の「神の目」によって、これまで発表していた工場のCO2排出量やコントロール状況の真偽も、白日の下に晒されるということです。

そのため、COPの目標も見すえて衛星データを提供する企業とタッグを組んで、企業が自ら積極的に情報発信をする動きも加速していくと思います。

医療機器・創薬の分野では、研究開発の専門家とビジネスのプロが一緒に事業を起こす流れがシリコンバレーを中心にあります。宇宙業界も同様に宇宙技術の専門家とプロのビジネスパーソンとが一緒に事業を起こす流れが増えていくと思います。

日本でも宇宙スタートアップが100社近く生まれ、多くの投資家の注目を集めています。会社が成長していくためには、宇宙のことを一般の方にもわかりやすく伝えることが重要です。PR・広報の方たち、まさに〝宇宙広報パーソン〟のような人たちのニーズも高まるでしょう。


あおき・ひでたか◎三菱電機で「こうのとり」の開発を担当、その後ドリームインキュベータを経て、グローバル・ブレインにて宇宙関連スタートアップ等に投資を行う。また、宇宙エバンジェリストとして数多くの宇宙ビジネス活動に取り組む。

文=堤 美佳子

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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