事業継承

2023.03.07

飲料用紙コップシェア70%の老舗、「変えないイノベーション」の真相

「祭り訪問型日本酒充填サービス」や「減塩豆腐容器」も


個々の課題を見つけ、パートナーを支援することで課題解決を考え、市場を拡大した例として、「日本酒充填サービス」があります。

地場産業における「酒蔵」の課題は、実は自治体全体の課題と通じるんですよね。

秋田県の大仙市さんが、日本三大花火大会と言われる「大曲の花火大会」を起点に地元で有名な日本酒をもっと色んな人に知ってほしいが、なかなか売れないと相談がありました。お祭りの実行委員には、だいたいその土地の酒蔵の社長が名前を連ねています。さらに、お祭りにはたくさんの地元の人、あるいは観光客が集まる。お祭りや花火は、売る側のトップがいて多くの潜在消費者がいるという、絶好の日本酒販売チャネルです。

そのチャネルを使ってわれわれが、「日本酒の市場がなかなか拡大できない」という問題解決に動いたこと。それが「移動式日本酒充填機の無料レンタル」でした。1分20缶、1時間1200缶の充填能力を持つ充填機をトラックで運び、酒蔵の充填スペースに設置する。日本酒の貯蔵タンクと接続すれば充填できるので、設備投資は不要なんですよね。それで、その場で日本酒を缶に詰めて売ったのです。

そうしたら、ふつうは年間3万缶売れればヒット商品といわれる缶の日本酒が、1カ月で2万缶売れたんです。高級感がある一方、重いくて割れやすいガラスびんより、一合サイズでモバイル性が高く、お土産にも最適な缶がお祭りというシーンにマッチしてヒットしたんですね。

基本的に日本酒はマイクロブリューワリー、だから缶に直に印刷だとコストがかかる。でも、銘柄をデザインしたラベルを貼るだけであれば、小ロットでも実現できる。

ほかにも、糖尿病患者のためのしょうゆ適量計量を目的に、減塩豆腐容器「ソルトーフカップ(Salt Off Cup)」を作りました。

毎食の塩分計測を義務付けられている患者さんは多いですが、1cc単位で毎回量るのはかなりのストレス。その課題解決のために、大さじ、小さじをカップの角で量る(写真左)、豆腐自体に計量できる溝ができるカップ(写真中央)、しょうゆをかけると和柄が浮かびあがり、約1ccになるカップ(写真右)をという発想を製品にしたんです。医師側の課題、患者側の課題が一致した製品ですが、これも、日常の食卓を楽しくするツールとして広がっていくといいなと思います。

減塩豆腐容器「ソルトーフカップ(Salt Off Cup)」

減塩豆腐容器「ソルトーフカップ(Salt Off Cup)」

和柄が見えたら適量、皿に溜めるのはNG

和柄が見えたら適量、皿に溜めるのはNG


まだ試験の段階で一般販売はされていませんが、和柄のタイプはしょうゆをかけすぎると柄が消えてしまうので、慎重にかけることで「1cc」が量れると好評です。
次ページ > 環境負荷を低減する製罐システム「aTULC(エータルク)」

構成=石井節子

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