事業継承

2023.03.07

飲料用紙コップシェア70%の老舗、「変えないイノベーション」の真相

「一部の人のニーズ」に多くの人が別の価値を見出す

現在、われわれが当たり前に使っている製品は、誕生の背景に、逼迫した「なければならない」需要があった場合が多いんです。

たとえば前述のレトルトパウチも、元来は宇宙食用に開発されたものですが、開けやすさ、管理のしやすさにすぐれていることから、家庭用に実用化し、大きな市場に広まりました。

また、「ウォシュレット」などの温水洗浄便座も、もともと医療機器だったのに、今は衛生機器として一般家庭にも普及しています。「本当はなくても困らないけれど、便利で清潔だから」という理由で、本来訴求していた市場から需要を大きく拡大させたんですね。ライターもまた、戦争で片腕を失い、マッチを使えない軍人のために発明されたそうですが、マッチを使える人も「こっちの方が便利」で普及しました。

そんなふうに「希求の需要」が、「あったほうが便利で幸せ」な需要へと広がることもある。そして、「一部の人の課題解決」と「マスマーケットでのヒット」は、真逆に見えて実は隣り合わせにある。課題解決に必要な製品や機能が、異なる対象者に届いたり、異なる用途に転用されることで大きな市場に受け入れられる、そう思います。

大変なヒット商品となっている「氷結」ダイヤカット缶も弊社製品なのですが、これは当初、缶を開けるとダイヤ柄が浮き出て飲む方をびっくりさせました。開ける前は中の炭酸ガスが缶の内壁を押しているので柄が目立たないのですが、開缶後に炭酸ガスが抜けることで、加工された形状が浮きあがるんですよね。実はこの製品は、もともと缶の強度アップを目的に作られており、ダイヤ柄自体は付属機能でしたが、サプライズや遊び感覚に多くの人が価値を見出してくれた、楽しく美しい製品です。


また、ツナ缶パッケージは、パッケージデザインの世界的な権威である国際コンペティション「ペントアワード2021」のプロフェッショナルコンセプトデザインで「金賞」を受賞しました。3缶をセットにするために必要なシュリンクフィルムをうまく破ると、波のように見えてきれいです。



ちなみに話題商品となったあの「生ジョッキ缶」は、缶の内面に塗布する塗料のメーカーが開発したんです。缶の内面にデコボコに塗料を塗布することで、泡が立つ仕組みです。中身を守るために必要な機能と技術力から、遊び心があり「あったほうが幸せ」な価値が生まれた例です。

世の中が便利になった昨今、昔のように食糧危機や高度成長期など、多くの人が直面する課題やニーズを探すのは簡単ではありません。だからこそ、個の課題、一部の人の課題に目を向けることが重要なのです。
次ページ > 「祭り訪問型日本酒充填サービス」や「減塩豆腐容器」も

構成=石井節子

ForbesBrandVoice

人気記事