ただ、「課題を見つける」といってもすべて自分たちから探しに行くのではなく、自社の持っている技術をうまく外に公表していき、頼ってもらうことも重要なのですが。
100年企業におけるイノベーションとは?
2017年に創業100年を迎えて、「社史」を作りました。さすが100年分だけあって、336ページにもなりました。
私が所属している「イノベーション推進室」では、この社史を熟読して「100年企業におけるイノベーション」とは、を考えました。そもそも日本の人口が倍増し、食糧不足になったことから缶詰製品が生まれたのに、今では逆に日本の人口は減っている。自分たちのビジネスを取り巻く環境が変化する中で興すべきイノベーションとはいったい何か? です。
しかし、老舗企業であればあるだけ、なかなか「新しいこと」ができにくいんですよね。
でも、社史を読み返すうちに、イノベーションは「新規軸、革新、刷新」などと翻訳されますが、必ずしも新しいことをすることばかりがイノベーションではない。それどころか、古いものを捨て去って新たな価値に目を向けるのではなく、むしろ捨ててはいけない「守るべきもの」を特定し、それを守るための新手段を見つけることこそイノベーションではないか。そんなふうに考えるようになりました。
昔できていたことが、環境の変化で必然的にできなくなっている、という事実もある。昔はスタートアップ企業のように、新しい飲料や食品、生活用品の容器を開発してきましたが、会社の規模が大きくなることで、小ロットの案件は受けづらくなりました。経済合理性を考えても妥当な経営判断と言えるでしょう。しかし本当の強みはこれから大きくなる新市場開拓や新製品開発なのです。それを取り戻すために、何を変えれば「できていた頃」に戻っていけるのか、を考えることもイノベーションだと。
一方で、大企業特有の問題もわれわれには生じています。事業拡大による縦割り化もそのひとつですね。
かつてのわが社は、製造、販売、管理一体の取り組みができていました。ですが縦の壁ができたことで、課題に直面し、解決需要が生じたときに、会社の「外」に解決策を探しに行ってしまうことも出てきた。答えのカギは私たちの「中」にあるのに。困難にうち勝ってきた100年以上の成功体験があるのに、です。
しかし、縦割り組織は我々の規模でビジネスをするには必要です。重要なのは、縦割り組織を壊す変革ではないのです。その前提条件がある上で、本当の強みである製造、販売、管理一体の取り組みをできるようにする変革なのです。だからこそわが社では、「守るべきもの」を守るために、変えなくてはいけないものを大胆に変える、それこそをイノベーション戦略の核に据えなければならないと考えるようになりました。