アート

2023.02.28

バンクシーが戦禍の街に描く壁画が「切手」になる意味とその背景

Getty Images

ロシアがウクライナへの侵攻を開始してからちょうど1年となった2月24日、世界はこの日を、さまざまなイベントとともに迎えた。多くの場所で徹夜の祈りが捧げられ、エッフェル塔はウクライナの国旗の色にライトアップされ、ジョー・バイデン米大統領はこの日を前に、ウクライナの首都キーウを電撃訪問した。

だが、それらのなかでもこれほど風刺的で、本当に勇気をくれるような「イベント」となったものは、他になかったのではないだろうか──。それは、ウクライナ郵便が正体不明のストリートアーティスト、バンクシーの壁画の写真を図柄にした切手を発行したことだ。

柔道着を着た小さな男の子が年上の大柄な男性を投げ飛ばすところを描いたこの作品は、バンクシーが昨年、ウクライナでの「レジデンシ―(滞在)」の間に完成させた壁画の1つ。

ロシア軍の爆撃によって破壊されたボロジャンカの街の一画に描き出されている。ロシアの現職大統領が柔道家で黒帯を持つ人であることは、広く知られたことだ。

強まる政治的ニュアンス

切手の図柄には、バンクシーの著作権マークが入っている。これが示すのは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領とその率いる政権とバンクシーの協力関係が、この切手の発行にとどまるものではないだろうということだ。

ゼレンスキー大統領がもともとコメディアンであり、脚本家、人気TV番組の制作指揮者であり、政治風刺について知らないわけではない人だということを、忘れてはならない。

また、もう1つこの切手の発行に欠かせない要素だったのは、実際には英ブリストル生まれのロビン・カニンガムだとされている切れ者のバンクシーが、これまで一貫して、容赦ない皮肉でいっぱいのグラフィティ(落書き)を描いてきた人だということだ。

バンクシー(またはカニンガム)はここ数年の間にますます、これまで各国で隠れて描いてきた壁画に、いわばあからさまに「皮肉を込めない、政治的なパフォーマンス」を加えるようになっている。
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編集=木内涼子

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