実は、ニホンウナギは、国際自然保護連合(IUCN)が作成した絶滅のおそれのある野生生物のリスト「レッドリスト」に2014年から掲載されている絶滅危惧種だ。漁獲量の減少も年々深刻になっている。
そんなニホンウナギの絶滅と、日本の鰻食文化の危機を救うべく、シンガポール発のベンチャー「UMAMI Meats」が、水産資源を細胞培養でつくる“培養魚肉”の開発に挑んでいる。
なぜ鰻の培養魚肉を開発するのか
UMAMI Meatsが開発しているのは、ニホンウナギ、キハダマグロ、レッドスナッパー。レッドスナッパーは、キンメダイの仲間でアメリカなどでは食用としてポピュラーな魚だ。これらの培養魚肉を自社で製造・販売するのではなく、生産ノウハウをライセンス化し、パートナー企業へ提供する予定だ。CEOのMihir Pershadは、この3つの魚に特化する理由を、次のように説明する。
「私たちは3つの優先順位で種類を選んでいます。第一にレッドリストに掲載されるか、それに準じた種であること。第二に、持続的に養殖することが難しい種。第三に、世界的な需要を見込めること」
ニホンウナギは養殖物も多く流通しているため、二番目の条件に当てはまらないように感じるかもしれない。しかし、ニホンウナギの養殖は漁で取った稚魚(シラスウナギ)を成魚にするもので、完全養殖(養殖した魚から卵を採取し、その卵を成魚まで育て、再び卵を採取する方法)ではない。
ニホンウナギのレッドリスト入りは、養殖のためにシラスウナギが乱獲されていることとも無関係とは言えないのだ。
Mihir Pershad氏
シンガポールの企業が日本市場を狙う理由
培養鰻のターゲットは、日本および日本食だ。ただ、その普及に向けては課題もある。「シンガポールやアメリカは、培養肉の流通・販売に向けたフレームワークができていて、承認さえ得られれば市場に出すことができます。一方で日本はまだ、そのフレームワークについて検討に入ったところです」(Pershad氏)
それでもニホンウナギにこだわるのは、日本市場への期待からだ。日本において魚は、高級料亭から日常の食卓まで、食材として外すことができない食材。生食も一般的で、日本人は魚の味や鮮度について厳しい目を持っている。調理技術も高度で、世界的に見ても優れた市場である。
加えて、日本食は世界で評価されており、東京は世界一のミシュラン星獲得数を誇る都市にもなっている。そのような市場で認知と評価を得ることは、UMAMI Meatsの信頼度を高めることにつながるとPershad氏は考えている。