熟練したバレエダンサーは、つま先で1回転するだけでなく、続けて何度も高速にターンすることができる。この種のターンは「フェッテ」あるいは「ア・ラ・スゴンド」と呼ばれている。両者は少々異なっているが、どちらも複数の連続した高速回転をともなう。ターンを繰り返す間、ダンサーはバランスを保つためにわずかに移動しなければならないが、このようなターンができること自体が驚くべき技術だ。過去の研究でスウェーデンとノルウェーの研究チームが、ロボットに同じようなターンをさせるようにプログラムしようとしたところ、1回のターンを繰り返すよりもはるかに複雑であることがわかった。
ダンサーにとっての目標は、できる限り同じ場所に留まり、ターンするごとに顔を前に向け続けることだ。踏切った場所に着地するためにダンサーが使う技の1つが「スポッティング」だ。
ターンする間にスポッティングするために、ダンサーはまず、前方の壁(あるいは別の視覚的基準点)を見る。ターンを始めると、ダンサーは頭を静止させその基準点に目を合わせる。これ以上顔を前に向けていられなくなるまで回転したら、ダンサーは頭を回転方向にすばやく回し、すぐにまた前を向いて同じスポットに注目し、その間に体はターンを終える。
スポッティングする際に、明確な基準点を作ることはどれほど重要なのだろうか。固定したスポットに視線を固定することなく、できるだけ長い間頭を前に向けておくだけではいけないのだろうか。ベルン大学の研究チームが解明したかったのはそこだった。
チームはプロのダンサー12名(男性8名、女性4名)に依頼して、一連の連続ターンをしてもらった。男性は12回のア・ラ・スゴンドの後にダブル・ピルエットを、女性はダブル・ピルエットから始めてその後フェッテ・ターンを12回行った。全員が1回目はこの演技を、スポッティングに使えるような明確な基準点のない真っ白な壁の前で行った。次に、前方からカメラで撮影しながら同じことを行ってもらった。ダンサーたちは知らなかったが、このカメラは撮影するためだけではなく、スポッティングに使える明確な視覚的基準点をダンサーに与えるためでもあった。
その後チームは、基準点のある時とない時の測定値を比較した。その結果、ダンサーは視線を合わせる明確なスポットがある時のほうが、バランスを保ち、ターン毎に顔を前に向けることがうまくできることをチームは発見した。ターンを繰り返すほど、視覚的基準点はより重要になっていった。劇場やダンススタジオには、ダンサーのために視覚的基準点を置くべきであると研究チームが指摘したのはそのためだ。
つまり、バレエ・ダンサーが連続ターンの技術を高めるために必要なのは、注視するための小さなスポットを壁につけるだけだ。これは多くのダンサーが本能的に行っていることだが、今回それが研究によって裏づけられた。
(forbes.com 原文)