ビジネス

2023.03.01 09:30

認知症の資産凍結問題をエイジテックで解決へ 「ファミトラ」が描く家族信託の未来

「65歳になったら家族信託」が当たり前の世の中に

日本で少しずつ広がり始めた家族信託。ここに潜む落とし穴を、「ファミトラ」はテクノロジーを駆使して上手く埋めた。家族信託の業界では、法務や税務などの専門知識が必要とされるが、それらの領域とテクノロジーを横断して理解できる人材が、かつて存在しなかった。三橋はそこにビジネスチャンスを見出し、「ファミトラ」独自の家族信託サービスを構築した。

また、資産を第三者に委託するには、何よりも透明性と信頼が必要とされる。「ファミトラ」では手頃な価格や弁護士監修のシステムに加え、専任の家族信託コーディネーターによる手厚い顧客対応も実施。事業の模倣困難性を高めている。それにより、従来は家族信託の顧客でなかったアッパーマスや準富裕層からも、支持を集めた。

2021年末にはEight Roads VenturesやCoral Capitalなどから、総額約14億円の資金を調達。今年、シリーズBでの資金調達を目指している。

「家を買ったら火災保険に入り、車を買ったら任意保険に入るように、親が65歳になったら家族信託をするのが当たり前になるような世の中を作っていきたい」(三橋)

取材中に幾度となく心に響くパワーワードや構想を電光石火のごとく発した三橋だが、一貫しているのは、家族信託を通して社会に貢献するという健全な思想。ぶれずに一筋に突き進む姿勢が、強みともいえる。

血筋を受け継いだアーティスト気質の起業家が目指す未来

創業わずか3年あまりで、家族信託の領域で革新的サービスを提供するトップ企業に成長した「ファミトラ」。高齢化先進国となった日本で、もう一段階ステージを上げていくという目標にどうアプローチしていくのか、その動きから目が離せない。

シリアルアントレプレナーとして次々と手腕を発揮する一方、三橋には画家である父親譲りのアーティスト肌が、脈々と受け継がれている。医療応用も可能だとされるシニア対象のBCIに取り組んだかと思えば、YouTubeやウーバーイーツをエイジテック・ビジネスに採り入れられないかと考えたり、尽きることのないアイディアを日々模索している。

そんな規格外の社長を支える広報の山崎純は、三橋をこう分析する。

「社内には熱い思想と才能を持ち、取り組んでいる社員が多く在籍しています。器に収まりきれない人材の宝庫を称して、ファミトラ動物園と呼ばれることもあるくらい(笑)。多様な社員たちを全てコントロールしている社長を、僕は敬愛を込めて『ファミトラ動物園の園長』と呼ぶこともしばしばあります(笑)。

この絶妙な舵取りがあるからこそ、システムを手がけるエンジニアとシニアを相手にするコンサルタント、2つの力を融合させて成果を発揮できているんじゃないでしょうか」(山崎)

5年後10年後の未来には、海外への進出も念頭に置いている。フィンテックの力で進化を遂げた家族信託。アーティスト三橋の手にかかると、古く悪しき面倒な契約さえも、さらに合理的に美しくブラッシュアップされていくに違いない。

「ファミトラは、長い時間軸でじっくり育てあげたいと考えています。お金や資産は、あってもなくてもだめなものです。まずはエイジテックでその問題を解決したい。そしていつかはまだ見ぬ未来のスタンダードを、自分で作り出してみたい。それが僕の生き方なんだと思います」(三橋)



三橋 克仁(みはし かつひと)◎2012年、manaboを創業。オンデマンド個別指導アプリ「manabo」を自ら開発し、ベネッセ/Z会など国内大手各社との業務資本提携を主導する。同サービスを十数万人の生徒と講師をつなぐ規模に拡大し、2018年に駿台グループに売却。2019年には、エイジテック領域に着目。顧客の自分らしさと安心を実現するために、信託DXで家族の資産に関わる課題を解決するファミトラを創業し、「家族信託」の普及に邁進している。現在の顧客の契約資産は約100億円、累計調達額は17億円程度。Forbes 30 Under 30 2016 Asia選出など、メディア出演多数。東京大学大学院 工学系修士課程修了。

文=中村麻美

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