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2023.03.01

認知症の資産凍結問題をエイジテックで解決へ 「ファミトラ」が描く家族信託の未来

ファミトラ 代表取締役 CEO 三橋 克仁

超高齢化社会を迎え、高齢者が総人口の29%を占める日本。認知症高齢者の数は増加の一途を辿り、2025年には730万人、65歳以上の5.4人に1人が認知症になると試算されている。それに伴い、認知症高齢者が保有する金融資産も膨らみ、2030年には230兆円に到達。日本の個人金融資産の1割に達するという、深刻な事態が予想されている。そうしたなか社会問題化しているのが、認知症による資産凍結だ。

この問題に取り組んでいるのが、テクノロジーを用いて家族信託サービスを提供する気鋭のスタートアップ「ファミトラ」だ。同社は、一般的に100万円以上かかるとされる家族信託組成の費用を、数十万円にカット。信託監督人として家族信託の継続的なチェック役を担うことで、組成後は月額数千円で機能する新しいタイプのサービスを提供している。

同社ではなぜそれを実現できたのか。「ベテラン家族信託コンサルタントの脳みそをITで再現する」というコンセプトのもと、未曾有の社会問題解決に乗り出す全貌と、社会貢献につながる未来の展望を探った。

複雑な家族信託をシステム化し、手頃な価格を実現

高齢者だけでなく、子世代にまで押し寄せる認知症患者の資産問題。現在の日本の法律では親が認知症だと判断されると、子供が親の銀行口座から預金を引き出したり、親が契約した株などの運用商品を解約することが難しい。結果、介護費用を親の資産から出せず、子供に経済的な負担が大きくのしかかり、介護難民になるケースが続出している。

そうした問題にテクノロジーの力で挑むのが、起業家の三橋克仁が率いる「ファミトラ」だ。三橋はオンライン家庭教師サービス「manabo」を成長企業に育て上げ、2018年、駿台グループに売却。2019年、BCI(Brain Computer Interface)の商業化を見据えて、高齢者が直面する課題に向き合うエイジテック領域への参入を決め、現「ファミトラ」を創業した。

「ファミトラ」のネーミングは、ファミリートラスト、すなわち家族信託に由来する。そもそも家族信託とは、本人に判断能力があるうちに大切な財産を信頼できる家族に託し、管理や処分を任せるという家族間で行う信託契約。人生100年時代、今後ますます普及していくジャンルのビジネスである。

家族信託では、成年後見制度と比べて自由に家族を受託者に指名でき、生前贈与のように贈与税がかからない。さらに遺言とは異なり、本人が健康なうちに効力が発生する画期的な制度だ。しかし一方で税務や法務、医療の問題が絡んでくるため複雑で、さらに契約にさまざまな詳細事項を盛り込める自由度から、組成に多くの時間や費用がかかってしまう課題があった。

そんななか同社では、これまでアナログだった家族信託のコンサルティング業務を、弁護士監修のシステムを用いて部分的にIT化し、効率化。それによって初期費用5万円、年額3万円というサブスクリプション方式で、手頃な価格のサービスを実現した。
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文=中村麻美

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