そのソニーは一体、どうやってでき上がってきたのか。ソニー創業者である盛田昭夫、井深大の側近として2人の生き様、仕事を間近で見てきた元ソニー常務が綴る『ソニー創業者の側近が今こそ伝えたい 井深大と盛田昭夫 仕事と人生を切り拓く力』(郡山史郎著、青春新書インテリジェンス)から以下、その一部を転載で紹介する。
私は、ほかにも盛田さんの危機対応を近くで目撃した。予期せぬ事態に慌てたりパニックに陥ったりすることもなく、傍目には冷静かつ合理的に対処しているように見えた。
盛田さんは、私が知るほかのリーダーたちとはメンタルがずいぶん違った。ストレス耐性が並外れて強く、危機や逆境にも平然としているように見えた。盛田さんは技官だったから、海軍で鍛えられたわけでもなさそうだった。
「世界はフェアじゃない」
盛田さんが危機や逆境に強かったのは、基本的にマイナス思考だったからだ。「ビジネスに失敗はつきもの」「うまくいかないのがビジネスの本質」が前提だった。
ビジネスには常に相手が存在する。顧客、競合会社、提携先など外部の相手もいるし、上司や同僚、部下といった内部の相手もいる。相手のあることは、思い通りに進むほうが稀有なのだ。「たまにうまくいく、少しうまくいくのがビジネスだよ」と盛田さんは話していた。
さらに盛田さんからは「世界はフェアじゃないから......」といった指摘も何度かうかがった。「なんてネガティブなのだろう」と驚くくらい、はじめから環境に期待していなかったのだ。
アンフェアな世界に生きていれば、ひどい目にあって当然。盛田さんからすれば「ショックを受けたり嘆いたりするヒマがあったら、冷静かつ合理的に対処する方法を早く模索するべき」という話でしかないのだろう。
とくに海外ビジネスは、何が起こるかわからない。日本人から見てフェアじゃないことが次々と起こるし、日本の常識で文句を言ってもはじまらない。「ビジネスはフェア精神が前提だ」というきれいごとも通用しない。
相手のアンフェアな言い分には従わず、徹底的に戦う。しかも、自分はあくまでフェアに戦おうとしたのが盛田さんだった。知恵を働かせ、利用できるものはなんでも利用し、うまく戦って勝つから値打ちがある──そういうスタンスだった。
「わしが最もひどくだまされた相手は(松下)幸之助さんだ」
海外だけでなく、国内のビジネスでも事情は変わらない。