人種間の不平等は臓器移植にも その原因とは

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米国の医師アリン・グラゴシアンは救急医になるための研修を受けていた2018年冬、突然の心不全に見舞われ死の淵に立たされた。原因は、生まれつき心臓にあった問題がウイルス感染によって悪化したことだと判明。新しい心臓が必要になった。CNNによると、幸運にもドナーが見つかったことで、心臓移植を受けて一命をとりとめた。

ただ、すべての米国人がグラゴシアンのように幸運なわけではない。臓器調達・移植ネットワーク(OPTN)とメディケア・メディケイド・サービス・センター(CMS)のデータによると、今月初めの時点で臓器移植を待つ米国人の数は10万4000人以上に上る。2021年には、1日当たり31人の米国人が移植を受けられず亡くなった。

さらに有色人種、特に黒人は、臓器移植を受けるまでのほぼすべての段階で不利な状況に置かれている。臓器移植は多くの場合、まず移植候補者として認定され、待機リストに掲載されてから、提供者とのマッチングが行われる。提供に同意したドナーは、提供の流れ全体を理解していることを確認するための面談を家族と共に受ける必要がある。さらにこれ以外にもさまざまなステップが存在する。

臓器移植の過程で重要なステップの一つが、ドナーから適合する臓器を受け取ることだ。慈善団体のアーノルド・ベンチャーズとシュミット・フューチャーズの報告によると、米国では臓器移植待機者の60%が有色人種だが、提供される臓器のうち非白人のものは35%にとどまる。

これは問題だ。というのも、臓器移植では、ドナーと患者が遺伝的に類似している必要があるからだ。双方の人種が近いと、移植後に合併症が起こりにくい。有色人種の人からの臓器提供が少ないと、有色人種の患者が必要な時に移植に適した臓器を受け取る可能性は低くなる。

では、有色人種の人が臓器を提供しないのは、白人と比べて寛大さに欠けるからだろうか? そうとは限らない。ある研究では、黒人のドナーの家族は白人のドナーの家族に比べて、臓器提供の過程に関する情報提供を受けたり話し合いの場が持たれたりすることが少ないことが指摘された。

別の研究では、黒人の家族が臓器提供を断った一般的な理由の一つとして、移植に関する重要な問題について、移植用臓器の調達を担当する非営利組織「臓器調達機関(OPO)」と話し合う時間が少ないことが示された。OPOが臓器移植の流れについて話し合う方法において、黒人と白人の家族の間に格差があるとすれば、黒人の家族が臓器提供に消極的になるのは当然だろう。
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翻訳=溝口慈子

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