新薬は、一度の経口投与によって、マウスの精子の機能を最大2時間半にわたって停止させ、最初の2時間に関しては100%の効果を示したという。投薬を受けたマウスは通常の交尾行動を取ったが、52回の交尾が確認されたにもかかわらず、雌が妊娠した事例は全くなかった。一方、効能のない対照薬を与えられたマウスは、約3分の1の確率で雌を妊娠させた。
コーネル大学ウェイル医学研究科の研究者で、論文の共著者のメラニー・バルバックによれば、この薬は投与から30~60分で効果を発揮する。精子が機能するために必要な酵素を阻害する仕組みで、効果は3時間後には91%まで低下し、翌日には受精能力が通常に戻る。
一方、これまで開発が進められてきた男性用避妊薬の多くはホルモンによる受精能力抑制を基盤としており、効果を発揮するまでの期間や効果が薄れるまでの期間として、数週間から数カ月が必要だった。今回の新薬は、理論上はヒトにも応用可能だが、実用化までには長い年月と多くの臨床試験が必要になる。
コーネル大学ウェイル医学研究科の薬理学教授で、論文の共著者であるヨヘン・ブックとロニー・レビンは、今回の研究成果は新たなタイプの男性用避妊薬を開発する取り組みにおける「ゲームチェンジャー」だと述べている。
避妊の責任は男女が等しく負うべきものだが、現実には女性が不公平に重荷を背負わされている。科学者たちは数十年前から、避妊手段の多様化をめざす取り組みを続けてきたが、目立った成果はあがっていない。候補となる薬が発表され注目を集めることは何度かあったが、実用化にこぎつけたものは一つもない。
理由の一つは、単に製薬会社にとって新たな避妊薬開発の優先順位が低いからだ。もう一つの問題は、一部の避妊薬にみられる副作用だ。最近行われていたいくつかの臨床試験は、被験者へのリスクの懸念から中断された。ただし、すでに販売されている多くの女性用避妊薬にも副作用はある。
レビンによれば、男性用避妊薬候補に対して安全性や副作用のハードルが高く設定される背景には、妊娠に伴うリスクを負担しない男性は女性よりも副作用への許容度が低いと考えられていることがある。
国連人口基金によれば、意図されず起きる妊娠は世界で年間約1億2100万件に上り、妊娠全体の半分近くを占める。女性が妊娠に関する決定権を全く持っていないことも多い。背景には、性暴力や性行為の強要、男女不平等、教育、自分で入手し服用できる状況に適した避妊薬の欠如といった問題がある。
(forbes.com 原文)