このアワードで「デジタルインパクト賞」を受賞したのが、自動車リサイクル業のプロだけが出品するBtoBの専門オークションサイト「GAPRAS」を開発・運営するシーパーツだ。これまでブラックボックスだった業者間とのやりとりをオンラインで見える化し、中古車のパーツ情報を即時で世界へ発信する前代未聞のオークションシステムを生み出した。
「鮮魚店や市場で売られているマグロを思い浮かべてみてください。まるまる一匹で売られている場合もあれば、中とろや赤身などさばいたものがバラバラに売られていますよね。私たちの自動車リサイクルのシステムも、それとほとんど同じことなんです」
そう語るのは、シーパーツ取締役会長の吉川日男だ。同社は、自動車リサイクル業のプロだけが出品するBtoBの自動車リユース部門専門オークションサイト「GAPRAS」を開発・運営している。特徴は、中古車をそのまま販売するか、バラバラにして部品として販売するか、より高く売り、利益を出せるための査定を素早くできるDXのシステムそのものを開発したことだ。GAPRASは現在、国内109社、海外70社の企業が利用している。
出品者である自動車リサイクル業者は、「エンジンはA社、ドアはB社」など出品車両の部品ごとに最も高値で入札したバイヤーへ販売が可能。そのため、車両1台あたりの最大利益を追求できる。
自動車リサイクル業界では、自動車の解体工場に得意先のバイヤーが常駐するという独自の文化がある。主にアジアから来日した外国人の滞在型バイヤーは、工場に入庫した車両から買い付け部品を「早いもの勝ち」のような状態で選定して対面での商談を行う。
工場側にとっては、在庫を把握している滞在型バイヤー以外への販売が難しく、マーケット価格も判然としないまま商談が進んでしまうというデメリットがあった。GAPRASはこの「業界のブラックボックス」の透明化を実現するものだ。
「自動車リサイクル業者は、こうした滞在型バイヤーに依存していたため、海外販売のノウハウがない工場も多いんです。GAPRASなら、自社の販売地域や自社取引先のバイヤーが買わない在庫の潜在的な売り先を見つけることができる。つまり、世界中の顧客とつながることができるプラットフォームです」
同社は1955年に吉川の父・一夫が家業として創業し、金属のリサイクル加工業を営んでいた。吉川は大学では応用計測を専攻した。「曖昧になっているものを数値化して見える化する」という吉川のビジネススタイルは、大学で磨かれたものだ。
卒業後すぐに家業に入り、その1年後に入社した兄と共に会社を支えた。当時は、1985年のプラザ合意から円高ドル安が始まり金属相場は右肩下がり。逆風の経営のなか、事業拡大を目指し自動車に特化したリサイクル事業へと徐々にシフトしていった。
一方で、都心から遠く離れた山口県にはバイヤーが少なく、販路拡大は容易ではなかった。
「日本にいるバイヤーに頼るのではなく、リサイクルのパーツを世界中のエンドユーザーや海外のバイヤーにダイレクトに届けることができれば利益幅が大きくなるはず。そのためには、インターネット上のシステム構築が鍵だと考えました」
吉川はまず、これまで培った自動車解体や検品技術のノウハウをベースに1990年代から顧客情報と世界中のリユースパーツ価格のデータベース化に着手した。