「海外では防錆コーティングの類似品は多く流通していますが、品質や性能は竹中の製品と似て非なるもの。ボルトに対する密着性と耐久性を両立した製品は、私が知るところではこれまでひとつも見たことがありません。日本のものづくりの技術力を海外に知らしめていきたい」
社長就任後は、社内の風土改革にも着手した。「中小企業とはいえ、150人の社員がいて海外展開もしているのに、会議では質問がまったく出ない。『自分たちのアイデアで会社をよくしよう』『もっと商売を発展させるよう』と意見を言える経営陣がほとんどいなかった」という。
この「ぬるま湯状態」を打破したいという思いから、管理職懇話会や意見交換会を開催した。当初は「うちの会社は住友商事とはちゃうんやぞ」と煙たがられることもあったが、徐々に会議で自分の意見を言う役員や社員も増加してきたという。
トップダウン型のリーダーシップでけん引してきた父の経営者像と、自分は異なると竹中は評する。
「当然最終的な決断や責任は経営者がとるべきですが、会社は私だけでなんとかしようとしても、ひとりの力でできることには限界がある。社員全員が総力を挙げてこの会社をよくしていくべきだと考えていますし、社員たちからも自発的にそう思われる会社にしていくのが私の使命です」
竹中佐江子◎1969年、大阪府生まれ。同志社女子大学卒業後、住友商事に入社。2009年に父の経営する竹中製作所に入社し、ボルト事業部長、常務取締役を歴任。16年から代表取締役社長。
竹中製作所◎1935年、艦船用のネジを製造する会社として創業。さびにくく耐久性の高い特殊コーティングを施したボルト・ナットの製造を主軸に成長し、海外進出にも注力。89年には電子機器事業部を発足させ事業の多角化も進める。
『Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を大特集。受賞7社のインタビュー記事やスノーピーク代表の山井太、経営学者入山章栄ら、有識者によるオピニオンも掲載。世界で勝負する彼らは、どのようにその「強み」を差別化し、武器にして成長してきたのか。独自の方法で可能性を切り拓いた試行錯誤の道のりには、多くのビジネスのヒントが詰まっている。