日本では例年、前月ごろから賞レースを意識した話題の新作の公開が相次ぐ。特に各賞にノミネートされた作品は、アカデミー賞絡みで宣伝しようと、授賞式に合わせて上映スケジュールが組まれていたりする。
いきおい、今年も2月は注目作品の公開が目白押しとなっていた。23日から公開が始まった「逆転のトライアングル」もそのひとつだ。
というのも、この作品は昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞している。しかも監督のリューベン・オストルンドは、前作の「ザ・スクエア 思いやりの聖域」でも、2017年に同賞を受賞した。
発表した作品が2作連続でパルムドールに輝いた監督は、75回の歴史を誇るカンヌ国際映画祭でも過去に2人しかおらず、オストルンド監督で3人目という快挙だ。ちなみに前作「ザ・スクエア 思いやりの聖域」は、第70回アカデミー賞では外国語映画賞にノミネートされていた。
今回のアカデミー賞では「逆転のトライアングル」は主要賞である作品賞と監督賞の両賞で候補に挙げられている。カンヌ国際映画祭での快挙もあり受賞の期待も高く、日本の配給会社もこの時期の公開を設定したのかもしれない。
豪華客船難破から起きる逆転劇
「逆転のトライアングル」を監督したリューベン・オストルンドは、スウェーデンの出身だ。日本でも公開された「フレンチアルプスで起きたこと」(2014年)では、雪崩をきっかけに亀裂が入っていく夫婦関係を絶妙なブラックコメディとして描いており、2020年にはハリウッドでも「ダウンヒル」というタイトルでリメイクされている。2017年の「ザ・スクエア 思いやりの聖域」では、現代アートのキュレーターが次々とトラブルに遭遇する姿をかなり風刺的に描いており、観客を戸惑わせるストーリー展開は、前作と同様でその技巧は冴え渡っている。
「逆転のトライアングル」も高い評価を得た過去2作と同じく、登場人物たちに対する辛辣な描写に溢れており、豪華客船に乗り合わせた乗客たちと乗組員たちの、まさにまさかの「逆転」のドラマが描かれていく。
カール(ハリス・ディキンソン)とヤヤ(チャールビ・ディーン)は恋人同士で、ともにファッションモデルをしているが、収入は売れっ子のヤヤのほうがはるかに多い、格差カップル。それでもレストランでは男性のカールが食事代を支払うことになり、そのことで言い争いとなる。この導入部は、以後の「逆転」のドラマの兆しとも言える印象深いシーンとなっている。