一方、豪華客船の客室乗務員たちは、富豪たちがもたらす高額チップを目当てに、どんな無理難題でもこなす覚悟で彼らをもてなしていた。そして、客室乗務員の下では、料理や清掃などを担当する裏方のスタッフたちも働いていた。
ある夜、アルコール依存症の船長(ウディ・ハレルソン)がウェルカムディナーを開催する。キャビアにトリュフと高級食材がふんだんに使われた料理が振る舞われていたが、船はその最中、嵐に巻き込まれてしまう。船内はパニックとなり、通りがかりの海賊の襲撃にも遭い、あえなく豪華客船は難破してしまう。
カールとヤヤ、客室乗務員のポーラ(ヴィッキ・ベルリン)や一部の富豪たちは人の姿なども見えない島に漂着する。少し離れた海岸には清掃係のアビゲイル(ドリー・デ・レオン)も救命ボートとともに流れ着いていた。
サバイバルのスキルなど持たない他の人間たちを尻目に、清掃係のアビゲイルは火を起こし、海で獲ったタコを捌いて調理する。そして、料理を分配するときに彼女は「ここでは私がキャプテン」と高らかに宣言して、「逆転」のドラマの幕が上がったのだが……。
人間に対する卓抜な観察眼
豪華客船の難破を契機に、清掃係の女性がいちばんの力を持つという展開になるのだが、そこに込められたオストルンド監督の風刺に満ちた視点は容赦ない。食べ物を求めてのサバイバルゲームの最上位に君臨するのは富豪でもインフルエンサーでもない、豪華客船の清掃係なのだ。この清掃係のアビゲイルを演じるのは、フィリピン出身のドリー・デ・レオン。母国ではシェイクスピアからハロルド・ピンター、サミュエル・ベケットまで舞台を中心に演じてきたベテラン女優だ。
彼女は国際的な映画には初出演となるが、舞台で培った質の高い演技はこの作品でも発揮されており、アカデミー賞の前哨戦、ゴールデングローブ賞では助演女優賞にノミネートされていた。