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2023.02.26

奈良をスモールビジネスの町に!中川政七商店が県と進める「さらば大仏商売」

十三代中川政七の中川淳

コロナ禍で社会構造の変革が起こった近年、新しい方法や仕組みで人口減少や景気減速に立ち向かう、知られざる日本の地方自治体がある。Forbes JAPAN 4月号では、ビジネスが活発に循環する地域を一挙紹介。今回は、中川政七商店と奈良県の取り組みをピックアップする。​


古都として観光人気の高い奈良県。しかし、都道府県別の訪日外国人一人当たり消費額はなんと47位。人は来るがお金を使わないというチグハグな現象が起きているのだ。店主が座っているだけの「大仏商売」的気質が一因とされる。

それをビジネスで変えようとしているのが、「N.PARKPROJECT(NPP)」。奈良で1716年に創業した中川政七商店を中心とした取り組みだ。代表取締役会長の中川淳は言う。「起業したい人が奈良を選ぶことは少ないが、奈良はスモールビジネスへの支援が手厚く刺激ある場所という実績とイメージができれば、ビジネスを志す若者が集まってきてくれるはず」。

NPPは、複合商業施設・鹿猿狐ビルヂングを拠点に経営講座やコワーキングスペースの運営を通じてビジネスに必要な学びや実践をサポート。奈良県も人材発掘・育成・ビジネス創出までの一連のプロセスをバックアップする。奈良県総務部長の湯山壮一郎は「民間企業とのプロジェクトは難しさもありますが、企業支援で成果を収めているNPPを後押しすることで、奈良県がスタートアップ振興に積極的だとアピールできれば」と語る。

「経営において最も重要で、最初にやるべきことは事業計画書の策定」(中川)。

NPPでは、中川が地元の事業者や起業を考えている人に対して、経営や思考のフレームワークを教示。その後スタートアップの場合、思いをビジョン化し達成のための経営計画作成から実践まで支援する。既存企業の場合、あらためてパーパスやビジョンの策定から始め、リブランディング支援まで行う。

中川の印象に残るのは20代女性が会社を辞めて開業したスパイスカレー専門店「菩薩咖喱」。店主の吉村萌々はイベントや間借りで不定期出店していたが、自店舗をもちたいと思い始める。「奈良をカレーの聖地にしたい」という思いを聞き、中川はビジョンや予算、中期経営計画策定等をサポート。資金が十分になかったため無料で支援を開始。中川政七商店との間で取り決めた一定の売上額を超えた際、売り上げの1%を“出世払い”として支払うという約束だ。

「菩薩咖喱」が客との接点 増加のため発売した自宅でスパイ スカレーがつくれるスパイスキット。 付属レシピも好評。

「菩薩咖喱」は2020年2月、コロナ禍の開業にもかかわらず2期目で黒字化に成功。「2年目から出世払いしてくれるとは思いませんでした。その使い道を検討するなかで、『恩送り制度』をつくりました。先輩事業者たちの出世払いをため、その資金を次の事業者の経営指導料に充てることで、持続可能な事業者支援ができます」(中川)

NPPは22年からメソッドを長野でも提供している。

「ジン専門バーの事業再生では、たった1年で売り上げ2倍に。『数字なんて興味もない』と言っていた店主が事業計画をつくるようになった。経営はセンスではなくやり方。事業計画は難しくはないが、必要だとも思わず経営している人が大半。だからこそNPPの取り組みは他地域でも再現性が高い」(中川)

奈良県は今後どう進化していくのか。

ユニット バスのパイオニア・日ポリ化工の リブランディングも支援。「新しい 風呂文化を創る」をビジョンに新 ブランド・SKUNAがデビュー。

「ここにしかない面白いビジネス、いいお店がたくさんある町になってほしい。近年グッドデザイン賞大賞を奈良県勢が2件受賞したのはその機運の表れに思う」(中川)。

前出の湯山はこう言う。「奈良のコアコンピタンスは質素で精神的な落ち着きや文化的奥深さ。創造性や文化にかかわるビジネスや研究等、深く考えクリエイトしたりすることに向いている。奈良の地域性を生かした企業支援をしていきたい」。

文=堤 美佳子 写真=井上陽子

この記事は 「Forbes JAPAN 特集◎スモール・ジャイアンツ/日本発ディープテック50社」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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