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2023.03.07 08:10

「顧客のボヤキ」が原点 九州から世界を制した農機具メーカー|筑水キャニコム

キャニコム代表取締役社長の包行良光。包行が乗っているのは、草刈機シリーズのなかでも、グラウンドやゴルフ場などの草刈作業に適した「Heymasao」。

Forbes JAPAN 2023年4月号』では、規模は小さいけれど偉大な企業「スモール・ジャイアンツ」を特集する。「スモール・ジャイアンツ」は、Forbes JAPANが2018年から続けてきた名物企画で、会社の規模は小さくても世界を変える可能性を秘めた企業をアワードというかたちで発掘し、応援するプロジェクトだ。

6回目となる今回グランプリに輝いたのは、福岡県うきは市を本拠とする産業機メーカー「筑水キャニコム」。社長自ら世界の農場や果樹園を飛び回り、困り事やニーズを発掘するという独自の営業スタイルを持つ。飛躍のカギとなった「義理と人情」経営とはいったいどんなものなのか。


人口3万人弱の福岡県うきは市。筑紫平野最深部に広がる水田地帯に2021年8月、「演歌の森うきは」が完成した。中をのぞくと、「草刈機まさお」「北国の春…ぉ」「ピンクレディ」「安全湿地帯」が出番を待って並ぶ。字面を見ると、まるでモノマネタレントの歌謡ショーだ。

しかし、聞こえてくるのは演歌ではなく金属の加工音。ここは最新設備を備えた工場であり、中に並ぶのは出荷を待つ草刈機や運搬車だ。

これらの製品を製造販売しているのが筑水キャニコムである。キャニコムは乗用草刈機四輪駆動や農林業用小型運搬車ではシェアトップを誇る。

ただ、同社の製品を支持するのは国内ユーザーだけではない。代表取締役社長の包行良光は胸を張る。

「今期(2022年12月期)、海外売り上げが初めて半分を超えて56%に達しました。私が入社した2004年の海外比率は5%。円安の追い風はあったものの、20年弱でようやくここまできた。取引国も53カ国に増えています。田舎の小さな町でも世界に通用するものづくりができることを示せたと思います」

キャニコムの製品はユニークなネーミングに注目が集まりがちだが、国内外で支持を得ているのは、製品自体に魅力があるからにほかならない。

強みはトランスミッションだ。乗り物は速く走るほうが高性能と考える人は多いだろう。しかし、農作業には必ずしもそれが当てはまらない。

「運搬車は果樹園などで実を摘む作業をしながら使う場合も多く、そのスピードに合わせて遅いほうがいい場合もあります。私たちは農作業しながらの走行を前提とした超低速『ナガラミッション』を開発。それを搭載した製品は時速0.25kmで、1分間に約7cmしか進まない。“カメより遅い運搬車”として人気になりました」

売りは遅さだけではない。運搬車はギア6段式で、6速ならスイスイ走る。悪路にも強い。小型乗用草刈機では、世界初となる四輪駆動車を販売。また農機はマニュアル式が主流だが、世界初のオートマ式油圧駆動トランスミッションを搭載した製品も販売している。

「狭いところでも入っていけるマヌーバ(小回り)性と、どんな場所にも対応できるフレキシビリティ。これはほかのメーカーに負けません」

組み立て作業中の草刈り機

2120年に完成した新工場「演歌の森うきは」で、組み立て作業中の草刈機 


キャニコムが支持される理由がもうひとつある。同社が「ボヤキズム」と名づける商品づくりコンセプトだ。

「お客様はご自身のニーズを常に把握しているわけではありません。潜在的なニーズは、現場にいかないと見えてこない。お客様の何げないボヤキを聞いて、それを解決する商品開発をしています」

ある飲食チェーンは指定牧場で牛を飼育している。飼料は雑草や干し草だが、雑草は短すぎると硬く、長すぎると花が咲くなどして苦くなる。その牧場では、牛に与える際のベストな長さは20cmと判断。

ところが他社の草刈機は0〜7cmで刈ることしかできないものばかりだった。キャニコムはそうしたボヤキを聞き、刈高20cmの草刈機を開発して喜ばれた。

大手が刈高20cmの草刈機を開発しないのは、それを必要とする顧客が少ないからだ。しかし、「1社でも必要としているなら、その人のためだけにつくる」のがキャニコム流だという。
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文=村上 敬 写真=小田駿一

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