今回「ベストタレントイノベーション」賞を受賞したのは、大阪府高槻市の環境機器。「虫オタク」たちのナレッジを武器に、防虫商社としての仕組みをつくりあげた。町工場の家業を継ぎ、業態を転換して市場シェアトップに導いたのが代表の片山淳一郎にほかならない。チームプレイに徹する個性派集団を超強力な司令塔はどう率いているのか。
業務用防虫資材の販売市場で50%とダントツのシェアを誇る環境機器は、直近20期、増収増益を続けている。農薬散布などに使う噴霧器の製造・販売を祖業とするが、現在は業態が大きく変わり、自らの事業内容を「開発型コンサルティング商社」と表現する。
この変革と成長の立役者が、創業家の3代目社長として2000年に家業を継いだ片山淳一郎だ。21年度の売上高は40億円を超え、売上高経常利益率は10%を超えている。
戦略は大きくふたつ。商社はモノ売り自体を差別化するのは難しいため、「環境機器から買ってもらう理由をつくる」のがひとつ目だ。顧客である害虫駆除業者は現場での経験値こそ高いが、防虫の知識を体系的に学ぶ機会はほとんどない。
環境機器は昆虫生態学で博士号を取るなど高度な専門知識をもつ人材を抱えている。そのリソースを生かし、防虫の最新知識が得られる害虫駆除業者向けセミナーを完全無償で年に100回程度開催してきた。コロナ禍のこの2年はウェビナー形式に移行し、その開催回数を年間200回と倍増させた。
より踏み込んだ支援を行うケースもある。環境機器にはITベンダー出身のシステムエンジニアも在籍しており、経営や業務効率化のためのデジタル化なども支援メニューだ。なんとこれらも基本的に無償。
「僕らができることであれば、お客さんの経営課題はタダで解決します。そこまでやると『毎日の仕事に必要なモノくらい環境機器さんから買うよ』という関係が自然にできちゃうんです」と片山は言う。
しかし、それだけでは利益を伸ばせない。そこをカバーするのが、独自商品の開発というふたつ目の戦略だ。「ニッチだけど付加価値が高くて、利益率も高いものは自社で開発しています。うちでしか売らないので価格支配力もある」と片山。粗利の約4割は独自商品が稼いでいるという。
ファブレスを徹底し、生産設備はもたない。これは噴霧器を製造する町工場だった時代と大きく違う点だ。「そもそも、中小企業は全部自社でやっちゃダメなんです」。自分たちの強みを生かせる領域に経営資源を集中させている。