多くの人々の日常生活に支障を及ぼす深刻な病だが、対症療法で症状を緩和するしかなく、根本的な治療は困難と言われてきた。
だが、そんな“困難”なアトピー性皮膚炎の根本的な治療に挑む研究者がいる。化粧品と医薬品の開発を行うベンチャー企業・ナノエッグの山口葉子氏だ。同社の代表取締役 兼 研究開発本部長を務めている山口氏は、理学博士でもあり、現在も社長業と並行して聖マリアンナ医科大学の客員教授を勤めている。
医療の世界で山口社長の経歴は「異色」だ。静岡大学工学部大学院修了後、米国の大手化学メーカー・ダウコーニングに日本国内で第一号の女性研究者として入社。その後、ドイツ・バイロイト大学で博士課程を修了した。
出産によって一時、研究者としてのキャリアを中断せざるをえなくなるが、帰国後は研究補助の職を経て、聖マリアンナ医科大学の難病治療研究センターで研究者として復帰する。その後「本当に肌に有益な化粧品と医薬品」を開発するため、2006年にナノエッグを設立した。
一見怪しそうな「紫の塗り薬」との出会い
山口社長がアトピー性皮膚炎の研究に没頭することになったきっかけは、娘が幼少期にアトピー性皮膚炎を発症し、苦しんだことだった。様々な治療法、民間療法にまですがったが、改善の兆しすらみられなかったという。あるとき「青森にアトピー性皮膚炎の治療で、目覚ましい成果を上げている名医がいるらしい」そんな評判が山口社長の耳に入る。まさに藁にもすがる気持ちで、娘とともに神奈川から青森へ向かった山口社長。
その名医がいるクリニックで目にしたのが、「紫の塗り薬」だった。幾分、怪しい印象を与えかねない塗り薬だった。しかし、実際に使ってみると娘のアトピー性皮膚炎は劇的な改善を見せたのだ。
なぜ、この「紫の塗り薬」は効いたのだろうか。当の名医も経験則によって、様々な化学成分を混ぜ、処方しているという状態だった。つまり、誰も“なぜ効果があったのか”をよくわかっていなかったのだ。