かつて日本でもアメリカのハーレクイン・ロマンスがたくさん翻訳されて上陸し、読まれた時期があったが、日本の衰微とは関係なく、アメリカではたくさんの恋愛小説作家が生まれている。
そしてこの時代、スティーヴン・キングなどの大作家でない限り、どの作家もSNSを駆使してファンを掴み、維持し、次の作品へと繋げている。
「死んでいた時期」に何をしていたか?
テネシー州在住の47 歳の主婦で、恋愛小説の著者であるスーザン・ミーチェンが、この度、2年ぶりに「生き返ってきた」ことが出版界で大きな話題になっている。2020 年の秋、彼女が亡くなったことを家族が発表する投稿が、ミーチェンのフェイスブックのページに掲載され、ファンは悲しんでいた。それは明確に自殺だったとしており、理由として、他の作家や批評家やアンチファンによる度を越した批判によって精神を病んだからだと書かれていた。
たくさんのミーチェンのファンが悲痛を訴え、作家を讃えて、未発表原稿を自分で資金を出すから本にまとめようと呼びかける読者さえいた。
ところが、今年の年頭にミーチェンは自分のフェイスブックのページに突然戻ってきて、実は生きていたことをカミングアウトした。そして、また創作を開始する意思を表明し、明るいトーンで「今後も面白いものを書く」という意欲も見せた。
しかし、世間はこれを歓迎するどころか、痛烈な攻撃に出たのだ。
同業者やファンは裏切られたと思い、警察に告発するものまで出て、実際に警察が本人を訪ね、生きていたことを確認し、それがニューヨーク・タイムズの1面に報道されるまでになった。
3年間で14冊も出版した小説家とはいえ、実状はミーチェンの著作は自費出版だった。そのように活動してきたミーチェンにとって、本格的な商業出版のステージを得るには自分の読者を大幅に増やすしかない。読者を大幅に増やす方法は、驚きを醸成するのが効果ある。そのような話題づくりのマーケティングのために自殺を偽装したにちがいない──だから許せないという批判がネットに溢れた。
それだけでなく、彼女が患ったとされる統合失調症の患者も、病気を商売のために都合よく使われたことによって自分たちも大きな被害を受けたとしてユーチューブ動画で顔を出して抗議している。
ミーチェンはそれらに対して謝意は示したが、法的には何も悪いことはしていないと主張している。
実際、死んだことを聞いたファンからの寄付金もあったようだが、少額であり、起訴になる可能性は小さいとニューヨーク・タイムズは報じている。
ミーチェンはフェイスブックの同業作家とのやりとりで、「私はただ自分の人生を取り戻したいだけです。 家族は私にとって最善だと思うことをしたので、彼らを責めることはできません」と言って家族をかばう。
これまでのメディアの取材を総合すると、確かにミーチェンは誹謗中傷に耐えられずに精神を壊し、それを見かねた夫が勝手に自殺したことにして書き込みをしたようだ。ミーチェンの夫は長距離トラックの運転手をしており、娘もいる。
夫は職業柄留守にする日が多い仕事であり、妻の健康と自殺の可能性に父娘が怯えたと証言していて、自殺の書き込みについては後悔していない。こうするよりほかに仕方がないじゃないかとしてすべては自分の責任でやったと夫は明言している。