河童橋からパリへ 売るだけじゃなく「説明したい」 

熊澤大介(左)と中道大輔(右)

中道:日本企業の場合、伝える努力を怠ってきていると感じています。日本はマーケットも大きいし、それなりに人もいる。だから日本のことだけを考えておけばそれでいけました。

新しいマーケットに入っていく時に「これ」というコンセプトを持ってそのまま出ていくその強さは、軸を持って伝えることをきちんとやってきているからだと思います。自信をもってきちんと伝えれば、相手に届くということを実感されているんじゃないでしょうか。

熊澤:そうですね。フランスで物を売るだけだったら、向こうに代理店を置いてディストリビューターを探して、モノだけ送って「お願いします」ってすれば簡単ですよね。

でも、それは僕たちがやりたいことではない。モノを売るだけじゃなくて、むしろ説明をしたいんです。これはこういうところが良くてと、自分たちの言葉で自分たちの思いをきちっと伝えたい。そうなると、お金も手間もかかるけれど、自分たちが行って自分たちの店を作るしかない。でもそれをやれば必ず伝わるはずだという思いがありました。

フランスで5年やってみて、少しずつですが僕らの思いを理解してくれる人が増えてきたので、僕たちの考え方は間違いじゃなかったんだなと思っています。
釜浅のごはん釜 (写真:釜浅商店)

釜浅のごはん釜 (写真:釜浅商店)


中道:
日本にはミシュランの星の数が世界で一番多いじゃないですか。それも日本食だけじゃなくて、いろんな国の料理がある。海外から持ってきたものをすごく深堀して、さらに美味しいものにして世に出しくのは日本人の特徴だと思います。

同じようなスタンスで、合羽橋にきたことがあるフランス人が、パリに釜浅商店が出向いてきてくれた、この道具が欲しかったんだ、みたいなストーリーになっているかもしれない。そういう人たちに、道具がつくられている背景や日本料理でどういう風に使われているかという話をして、それを聞いた彼らが違う視点をもって使い方を変えていくこともあるかもしれませんね。

熊澤:道具なので、その本質や使い方はきちっと伝えなければいけないと思うんです。例えば、片刃包丁なので刃が欠けやすいですとか。そういうことをわかったうえで、新たな使い方は生まれてくるんだろうし、そうあるべきだと思います。

きっと僕らが知らないだけで、本来の使い方とは違うようなことはされていると思うんですよね。日本人は「これはこういう使い方じゃなきゃダメ」とか言いがちですけど、そこはもっと柔軟性があっていいと思っています。日本とフランスの化学反応みたいなもので、新しいものが生まれるかもしれませんし。そういう風に考えるとすごく夢がありますよね。

でもそうなるには、本質をわかっている人間がそこに行って、自分たちの言葉できちっと伝えることが絶対的なベースだと思います。

中道:それは本当に大事なことですね。ただ売るだけなら、おっしゃったとおり代理店を置いてディストリビューターに任せてしまえばいいわけで。みんなそうしているじゃないですか。でもそれではこっちの思いは十中八九伝わらないわけです。
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文=久野照美 編集=鈴木奈央

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