でも、このままだったら商店街は廃れて、商売もだんだん萎んでいく。扱っている商品や、商品知識、これまで積み重ねてきた経験には絶対的な自信があるし、それが一番の強みでもある。でもそれがお客さんに伝わりきれていないかもしれない。そこは考えなければいけないだろうなというところに思いがいきついたんです。
中道:ブランディングやリブランディングでは定義の過程が重要ですけど、日本はそのプロセスが抜けていることが多いんですよね。
だからこの「良理道具」というコンセプトにすべて紐づけてやられているのは素晴らしいと思います。このコンセプトについて教えてもらっていいですか。
熊澤:「良い道具には理(ことわり)がある」という意味あいがあります。
うちが扱うのは便利なキッチンツールではない。きちっとした仕事をする道具で、その物の本質がそこに生きているようなものです。親父や祖父の時代から、そういう筋が通っているものしか扱っていないということを世の中の人たちに伝えていかなければと。
「良理道具」は自分たちが仕事で迷った時に立ち返って考える、そういう指針になっています。このコンセプトをバチッと決められたことがこのリブランディングで最も価値があることだったと思っています。
中道:そういう背骨や骨格ができて、2018年にフランスのパリ店オープンということですが、どういうプロセスだったんですか。
熊澤:本当に良いものをより多くの人に知ってもらいたい。そのためには合羽橋で待っているだけでは限界がある。じゃあどこに出したらいいんだろう? と考えた時に、どうせやるなら一番やりたい食の本場パリに最初から行っちゃおうって。そこで僕たちの思いを理解してもらえたら、きっとそこからもっと広がっていってくれるだろうなって思ったんです。