ヤマト運輸は高速道路における大型トラックの法定速度上限を80Kmから引き上げるための取り組みを始める意向だ。関係省庁やメーカーと共に安全性を担保できる車両開発とテスト走行のもと、進めていく案が報告されている。
この取り組みは長距離輸送におけるドライバーの拘束時間を削減し、コストの維持・改善を目的とするものだ。例として法定速度の上限が100Kmに変更されれば、東京ー大阪間の輸送で拘束時間が2時間削減されると試算されている。
大型トラックが80Kmに速度規制されてきたワケ
そもそも大型トラックが80Kmに速度規制されてきたことには理由がある。「安全面への配慮」「環境および燃費への配慮」といった観点だ。速度規制だけでない。平成15年には、時速90Km以上の速度が出ないスピードリミッターの車両搭載が義務化された。装着の猶予期間は平成18年の末まで。
その結果、平成17年の大型トラックによる死亡事故件数は平成9年から平成14年の平均件数より約40%低減したと報告された。事業用車が第一当事者となる死亡事故件数は毎年減少しているものの、大型トラックによる件数が一番多い。そのため事故率低減の効果も高い。
二酸化炭素排出量の低減も同時に報告されている。カーボンニュートラルへの取り組みは当時からますます強化されているし、現状における燃料費の高騰も考えれば燃費のいいエコ運転を心がけたいところだ。
事業用車としては「荷崩れの防止」の観点も重要となるだろう。荷崩れを起こし商品が破損すれば、サービス品質の低下はもちろんのこと、運送業者としても商品の弁償に余計なコストがかかってしまう。
荷主企業によるが、中の商品に問題はなく、外箱が少しへこんだだけでも買取りしなければならないケースもある。そのため急ブレーキをかけないよう、高速道路でもスピードに配慮する必要があるのだ。
リスクを取ってでも物流危機に対応するフェーズか
このようにいくつもの理由から高速道路における大型トラックの法定速度は80Kmとされてきたにも関わらず、「短い時間での輸送」を優先しなければならない事情がある。日本ロジスティクスシステム協会の報告書「ロジスティクスコンセプト2030」によると、2030年には荷物の約36%が運べなくなると予想された。
「宅配需要の増加」「ドライバー不足」「法改正によるドライバーの残業時間規制」などの要因がある。業務の効率化を進めるよう国からも呼びかけや取り組みが進められているが、それだけでは乗り越えられない高い壁だ。