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2023.03.16 17:00

ヘラルボニー松田崇弥の偏愛漫画『ピンポン』|社長の偏愛漫画 #9

栗俣:松田さんご自身も、卓球に打ち込んでいた時期があるとか。

松田:小学生のときは、双子の弟・文登(ヘラルボニー代表取締役副社長COO)とソフトボールをやっていました。全国ベスト16にも入る強豪チームにいて、朝から晩まで練習していましたが、6年生のときには「もう勝てないな」と感じていました。

結局、中学では双子で卓球を始めました。卓球なら、もしかしたら天下を取れるんじゃないかと。「才能のあるほうをやろう」というマインドでした。ここなら自分が活躍できる、という場所を探していく側面がある。この点は『ピンポン』の影響を受けていると思います。

中学時代は地元で優勝もして、高校ではインターハイを目指していました。寮生活を送りながら卓球漬けの日々で、『ピンポン』に出てくる海王学園そのものでしたよ。

栗俣:だからこそ、『ピンポン』の世界にリアリティを感じていたのですね。卓球強豪校の海王学園の主将・ドラゴンが、ペコとの対決で、勝利への執着から解放されるシーンがありますね。

松田:あれはいいですよね! 私、あの場面が大好きです。

栗俣:あのシーン、まさにヘラルボニーの価値観を表していると思います。

松田:この作品の中に、我々の会社のミッション「異彩を、放て。」が全部詰まっている気がしてなりません。「好き」に忠実で、得意なことをどんどん伸ばしていくという価値観は、我々の会社にとっても幹になっています。その部分は、松本大洋さんの漫画から大いに刺激をいただいていると感じます。

ペコやスマイルは、その「好き」を自分で発信することができますが、私たちが契約している作家さんは必ずしもそうではない。例えば、SNSを駆使して自分で売り込みをするなんてことは、とてもハードルが高い。ヘラルボニーは、そうした方々と社会との接続点でありたい。ヘラルボニーというフィルターを通すことによって、実力のある作家さんが実力どおりに社会に出ていくことにチャレンジをしています。

『ピンポン』の最後で、ペコはブンデスリーガ(ドイツのプロリーグ)に行って「ヒーロー見参!」と啖呵を切る。あんなふうに世界に羽ばたく作家を、これからヘラルボニーがどんどん生み出していけたらと思っています。

栗俣:卓球をやめようとしていたペコに、宿敵であるアクマが「才能があるんだから卓球を続けろ」と背中を押すんですよね(第29話)。あの一言がなければ、ペコのその後の活躍はなかったかもしれません。

©︎松本大洋/小学館

©︎松本大洋/小学館


松田:本当にそのとおりです。知的障害のある作家の作品が社会から称賛を受けると、最初は「息子の絵はらくがきなのに……」と恐縮していた親御さんが「ウチの息子はすごいんだよ!」と胸を張って自慢し始めます。ペコの背中を押したアクマのように、ヘラルボニーは作家の卵たちの背中を思いきり押してあげたいのです。

栗俣:いまお話を聞いていて、僕、目頭が熱くなっちゃいました。障害のある方が描いた絵を見ると、すごく感動します。美術館でずっと見ちゃいます。
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インタビュー=栗俣力也 文=荒井香織

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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