栗俣:ヘラルボニーの事業と、ペコという人物には、実はリンクしている部分があると感じています。先ほど、ペコは本能のままに生きているという話がありました。そういう存在だからこそいろいろな人に愛され、彼らにも影響を与えています。これは、ヘラルボニーがやっているビジネスに近いのではないでしょうか。
松田:実は、ヘラルボニーを立ち上げた原点にあるのが、小学生のときに出合った『ピンポン』なんです。
松田:「俺が勝ったらちゃんと“さん”くれろ。“ペコさん”。そう呼べ」とか「アイ・キャン・フライ」とか、おかしな口調のペコは、現代だと、普通じゃない変なやつと思われるかもしれない。でも彼には、熱量を伝播させる力があります。
昨今の企業は必死になって「ミッション、バリューを伝播させよう」と唱えますが、ペコは「好きで好きで仕方がない」を察知させる。「意図がない」なかで影響を与えているのが素敵な点です。
栗俣:「できないことをさせられる」のではなく、好きなことをとことん好きでいる。そうやって主人公たちの才能を開花させていくところは、ヘラルボニーのミッションと重なりますね。
松田:そこはすごく感じています。
知的障害がある作家のなかには、自分のことをアーティストだと思っている人はほとんどいません。余計な自負もプライドもないおかげで、彼らはあらゆる束縛から解放され、ひたすら自由です。ボールペンで一心不乱に黒丸を塗っていたかと思うと、その作品をひっくり返して裏面にも黒丸を塗り続ける。額装すれば裏面は見えないのに、誰かに見せるとか見せないとかいった概念を、はなから飛び越えているのです。
私がアーティストであれば「この作品がどう美術的文脈に乗っかり、歴史的フックに引っかかるか?」「1点50万円で売れたらいいな」といった邪念が頭に浮かんでしまうけれど、彼らはマーケティングや資本主義の論理なんて関係なく、思うがままに創作活動に打ち込みます。その「意図がない」ところに、人は魅力を感じるのだと思います。