「課題先進国の日本では、高齢者食の分野でも一歩進んでいます」。こう語るのは、DM三井グループ研究所長の奥野雅浩だ。
国内の砂糖消費量が減る状況下、「スプーン印」で有名な業界トップの三井製糖と、2位の「ばら印」で知られる大日本明治製糖が合併。「製糖事業の強靱化だけが狙いではありません。グループのシナジーを発揮して総合栄養企業へと変革を図るのです」と奥野は言う。
グループ内には、味や物性の改良技術をもつタイショーテクノス、乳酸菌などの微生物培養技術に強い北海道糖業、飲料やゼリーの加工技術のあるサクラ食品工業などがある。取材時もバガス(サトウキビの搾りかす)からのポリフェノール抽出、不溶性食物繊維であるバンブーファイバーを活用したプラントベースフードの開発が行われていた。
機能、栄養、味わいの三角形を描く
DM三井製糖は長年、純度の高い砂糖を提供してきた。その過程で「パラチノース」を世界で初めて工業生産することに成功する。「パラチノースは砂糖の主成分であるスクロースと同じブドウ糖と果糖が組み合わされた糖。最初は虫歯になりにくい糖として開発されましたが、2000年代にその機能を見直すと、体内でゆっくり吸収され、血糖値が急激に上がらないことがわかりました」。その特性を生かし、アスリートやeスポーツ選手のパフォーマンス向上を謳うパラチノース配合スポーツドリンクやエナジードリンクなども発売されている。
また、パラチノースは回復期にある患者の流動食にも使用されている。14年に傘下に加わった病院での栄養食品を開発するニュートリーの製品がそうだ。「乳酸菌やコラーゲンペプチドなどの機能性素材に加え、糖や原料の質にこだわって味を磨く」(奥野)。パッケージもこだわり、胃ろうも経口摂取も可能にした。
22年にテルモから事業を引き継いだのは「可変型流動食」を含む栄養食品資産だ。可変型はサラサラの液状品が胃の中でトロッと物性が変化する。嘔吐や下痢を防ぐ効果があり、患者はもちろん介護者の負担を減らせる。こうした機能に加え、栄養分や味わいをグループのシナジーで向上させる狙いだ。
「何歳でも『まだまだ食を楽しみたい』と考える日本は独特の市場で世界も注目しています。我々もできるだけ長くその時間を楽しんでほしいと考えます」(奥野)。
糖は脂質、タンパク質と並んで人間のエネルギー源となる三大栄養素のひとつだ。一人ひとりが、それぞれの状況に合わせて最適に糖を摂取できるようになれば、より健康的に人生を楽しめるだろう。
奥野雅浩◎1999年、神戸大学農学部生物機能化学科卒業。2004年、神戸大学大学院自然科学研究科修了。博士(農学)。同年に三井製糖入社後、商品開発部で砂糖の研究や食材開発に従事。22年10月より現職。