北米

2023.02.17 08:00

時価総額9兆円のステーブルコイン「テザー」の謎だらけの実態

謎に満ちたバランスシート

テザーに対して批判的な@Bitfinexedという匿名アカウントは以前、キャンター・フィッツジェラルドとアンスバッハがテザー社の銀行パートナーの一部だと述べていたが、フォーブスが入手した資料で、それが事実であることが確認できた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)も2月10日の記事で、キャンター社がテザー社の390億ドル(約5兆2000億円)相当の債券ポートフォリオを管理していると書いていた。

テザー社とキャピタル・ユニオンの関係は昨年5月のフィナンシャル・タイムズ(FT)によって明かされたが、同銀行が保有する資産の価値とその内訳、資金の移動の時期はこれまで報道されていなかった。

当局の調査団はこれまで長い間、その秘密性と巨大さが相まって「暗号資産業界を破壊しかねない」と評されるテザーの運営元の財務内容の開示を求めてきた。ステーブルコインであるテザーの価格は、米ドルに連動するよう設計されており、USDTの価格は、ほとんど変動することなく約1ドルに固定されている。テザー社は、USDTの価値が「担保によって完全に裏づけられている」との主張を続けている。

その結果、このコインは、決済や送金、融資だけでなく超高速取引(High Frequency Trading)にも利用され、世界で最も取引される暗号資産の1つになっている。

テザー社のCTOを務めるパオロ・アルドイノは、会社のフロントマンとして「当社の役割は、互いの取引を公正かつ透明で安価な方法で提供することだ。新興市場や発展途上国の何百万人もの人々にとって、まさに命綱になる」と、昨年ツイートしていた。

しかし、同社はその財務内容をほとんど開示していない。テザー社は準備金の完全な監査を受けたことがなく、外部の会計事務所(最近ではBDOイタリア)が作成した定期的な「証明書」というかたちで、口座のスナップショットを少しずつ提供しているに過ぎない。

昨年8月にWSJは、2017年にテザー社が銀行口座の監査を受けた際に、関連会社の暗号資産取引所のビットフィネックスから8億3200万ドル(約1110億円)の送金を受け、その監査をくぐり抜けたとの疑惑を報じていた。それに比べ、テザーの競合のUSDコイン(USDC)を運営するボストンを拠点とするサークルは、時価総額410億ドル(約5兆4800億円)のコインを支える準備金の詳細を公表している。

テザー社はさらに、誰が同社を率いているのかを曖昧にしており、投資責任者の匿名性を守るために戦う姿勢すら見せている。しかし、内部資料とアルドイノの以前のフォーブスの取材に対する回答から、その人物がシルバノ・ディ・ステファノ(Silvano di Stefano)と呼ばれる人物であることが判明している。しかし、同社はディ・ステファノの名前を公式サイト上に記載しておらず、彼はフォーブスのコメント要請にも無反応だった。

テザー社は以前、すべてのコインは米ドルで裏づけられていると主張していたものの、2019年にその説明を覆し、現在は、現金や暗号資産、米財務省証券、マネーマーケットファンド(MMF)などの資産で裏づけられていると述べている。

JPモルガンのアナリストは2021年に、もしもテザーの準備金が不十分であることが判明し、信頼喪失に拍車がかかった場合「深刻な流動性ショック」が暗号資産市場の広範囲に波及する可能性があると警告した。
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編集=上田裕資

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