マイクロソフトが「産業用メタバース」部門を閉鎖、その思惑は?

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Microsoft(マイクロソフト)は、2022年10月に産業用メタバースプロジェクトを立ち上げたが、早くもこの部門に見切りをつけようとしている模様だ。同社は、このプロジェクトで拡張現実(AR)ヘッドセットの「HoloLens 2」を用いて、発電所や産業用ロボット、輸送ネットワークの制御システムなどを操作するためのソフトウエアインタフェースを開発しようとしていた。

ニュースサイトのThe Informationは、この状況を直接知る人物の証言を引用し、マイクロソフトが産業用メタバースプロジェクトに関わる従業員約100人のすべてをレイオフしたと報じている。この人員削減は、同社が1月に発表した1万人(従業員の約5%)の削減の一環という。

「マイクロソフトは、Windowsの巨大なユーザーベースのおかげで、いつでも競合に追いつけると考えている。彼らは、自らが一番手としてリスクを負う必要がなく、メタバースをとりまく環境の不確実性に悩まされる必要もないと考えたのだ」とコロンビア大学経営学部のダニエル・ケウム准教授は述べている。

ハワード大学のジェラルド・ダニエルズ経済学准教授も、この見方に同調し「資金の借入コストが高くなった今、ハイテク大手はより慎重な投資を行う必要に迫られている」と述べた。

一方で、マイクロソフトの広報担当者はフォーブスの取材に次のように述べた。「当社は、産業用メタバースにおいて、顧客にとって最も重要な分野に注力しており、顧客はそのサポート方法に変更を感じることはない。今後もこのプロジェクトに引き続き取り組んでいく」

メタバースの理念のうちのいくつかは、分散型かつ相互運用が可能なブロックチェーン技術に基づくものとされているが、実際は必ずしもそうではない。Facebook(フェイスブック)の親会社のMeta(メタ)は、現状では分散化のアプローチをとっておらず、マイクロソフトも自社のビジネス生産性プログラムを、フェイスブックのサービスと統合する契約を結んでいる。

ケウム准教授は、マイクロソフトが「メタバースを普及させるための大変な仕事」を、メタ社に任せたと考えている。彼はそのアプローチを「戦略的待機」と呼んだ。

ケウム准教授の同僚のシャオ・カイロング准教授は「ハイテク業界に広がるリスクの再評価を考慮すれば、マイクロソフトの撤退は理に適っている」と話す。

「金利がゼロのときは、ほとんどコストをかけずに未来的プロジェクトに投資が行える。しかし、今は1年前とはまったく異なる環境に直面しており、企業はリスク回避の動きを進めている」とXiao准教授は指摘した。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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