実は、40年以上にわたって生体認証技術の開発を進めてきたNECは、この分野のパイオニアだ。同社の生体認証「Bio-IDiom」を活用し、世界70以上の国と地域で1000システム以上に導入されている。
複数の生体情報を組み合わせれば、“100億人を個別に特定できる”ほどの性能。まさに全人類をカバーできる認証技術だ。顔認証技術で世界1位を誇るNECトップに、この技術が未来社会にどんな可能性をもたらすのかを聞いた。
現実世界とともに、仮想空間のメタバースでも「あなたは、確かにあなたである」ことを保証する技術、それが「認証」だ。今後さらなるデジタル化が進むなか、認証の本丸と目されるのが、顔など人体の特徴を使う「生体認証」。
「顔は一人ひとり異なる。いちばん安全で確実、生涯不変の『究極のID』。メタバースにおいても、生体認証はとても重要になる」──。こう断言するのは、NECの森田隆之社長兼CEOである。
「まさに究極のIDだ。パスワードとは違って、個人の生体情報であれば、いまアクセスしようとしている人が確かに本人であるかどうかを確実に認証できる」。森田は、顔などを使った本人確認技術「生体認証」について、このように表現する。
指紋、手のひら、静脈、声、目の虹彩。人体が備えるこれらの特徴は、人それぞれで異なる。特に虹彩は一生不変といわれており、顔についても骨格が決まってくる10代後半以降になれば、大きく変わることはない。「生涯不変のID」と森田が称する理由は、ここにある。
こうした人体の特徴を使って、建物・部屋などの入退管理、出入国やイベント・試験での受付と不正防止、ITサービスへのアクセスなど、各種の本人確認を可能にする技術が生体認証だ。
「昔から不正者との戦いは、いたちごっこそのものだった」と森田。より確実で利便性の高い認証手段が求められていた。
日常生活とデジタル技術が一体化したいま、各所でますます問題視されているのが、パスワードの漏えいなどによる不正ログインと、第三者による「なり済まし」である。不正送金や情報の不正入手など、各所で被害が起きているのは周知の通りだ。
翻って、あなたそのものを示す顔が、そのままIDおよびパスワードとして使えるとすればどうだろうか。生体認証のうち、顔はもちろん虹彩などは特に偽造が困難。きちんと取り扱えば、安全で確実な認証システムが実現できる。
さらに、コロナ禍を経て感染症に敏感になっている昨今を踏まえると、カメラを使い非接触で確認できる顔認証は、現在の状況と親和性が高い。冒頭で森田が「究極のID」と表現した理由は、安全性とともに利便性という両面のメリットがあるからだ。
顔認証と虹彩認証を組み合わせることで、さらに精度が上がる。こうした複数手段の組み合わせを「マルチモーダル生体認証」という。顔と虹彩を組み合わせた認証の精度は「100億人を瞬時に間違いなく特定できるレベルにある」と森田は明かす。