フォードは先に、CATLが中国で製造するLFP電池を2023年半ばから「マスタング・マッハE」に、2024年初頭から「F-150ライトニング」に採用する計画を発表している。ただ、中国から電池を出荷すれば輸送時に排出ガスが生じ、車両の低炭素化の効果が大きく損なわれるため、フォードの持続可能性目標の達成にはつながらない。また、中国製電池を使用した車両はクリーンカー減税の対象にもならない。
このため、フォードをはじめとするOEM各社は、車両製造販売地域での電池生産を積極的に推進している。フォードはすでに、韓国のSK ON(SKオン)との合弁事業でケンタッキー州とテネシー州でニッケル・マンガン・コバルト(NMC)電池を生産すると発表し、3つの電池工場を建設中だ。NMCなどニッケル含有率の高い電池は、LFPよりエネルギー密度が高いが、ニッケルとコバルトは鉄やリンに比べてはるかに高価で、揮発性の高さから熱暴走を起こしやすい。一方、LFP電池は本質的に安定性が高く、熱暴走や発火の心配はほとんどない。
LFPのエネルギー密度の低さは、セルトゥーパック(CTP)や構造的な電池パック設計を採用することでほぼ相殺できる。LFP電池は低コストで、充電サイクルの寿命が非常に長い。CATLなど一部メーカーは、LFP搭載EVは100万マイル(約160万キロ)走行できると主張している。また、安定性が高いため100%充電しても劣化しにくい。
新事業を合弁事業ではなくフォードの完全子会社とするのは、米インフレ抑制法の内容要件が一因とみられる。CATLのバッテリーセルを制限して一部技術のライセンス供与のみを受け、材料の大半を現地調達することで、フォードは自社の電池が国内調達の要件を満たしていると主張できるだろう。
フォードのリサ・ドレイク副社長(EV産業化担当)は「2026年に工場が稼働した時に最も低コストな米国製電池を製造するためには、どうすべきかを検討した結果であり、2026年にモデルE(フォードのEV部門)のEBIT(利払い・税引き前利益)を8%にするというフォードの目標に寄与するものだ」と説明。「これにより国内のサプライチェーンを強化し、生産を拡大して、より多くのEVをより多くの顧客により早く提供できるようになる」と述べた。
マーシャル工場は約2500人の新規雇用を創出し、年間約40万台分のEVの電池セルを供給する見込み。
(forbes.com 原文)