400年続く技術と才能の集積、新しい文化を受け入れる寛容さが次世代のイノベーションを生み出していく——再開発で注目される「八重洲」「日本橋」「京橋」エリアの可能性に迫る
いま、東京駅前の八重洲エリアを中心に、大規模な再開発が連続して行われている。公表されているだけでも10以上の計画が進行し、街の様相が変わりつつある。
そんな八重洲エリアを中心とし、日本橋、京橋にまでまたがる東京有数のビジネス拠点——
この頃は「八重洲(Yaesu)」「日本橋(Nihonbashi)」「京橋(Kyobashi)」の頭文字をとって、「YNK(インク)」と呼ばれる——は、上場企業の本社立地数が都内でもっとも多く、これまで「大企業が集まる街」というイメージが強かった。ところが近年、スタートアップ向けのシェアオフィスなどが展開され、世界で活躍する次世代のビジネスも生まれ始めている。
社会学者・リチャード・フロリダは、自著『クリエイティブ資本論』の中で、イノベーションの創出には、経済成長の3つのT=Technology(技術)、Talent(才能)、Tolerance(寛容)が1カ所で提供されるような集積が必要と指摘している。技術や才能の集積に加えて、これらのネットワーキング、相互作用が活発に進むような寛容性の確保が、経済・人材集積を誘引し、イノベーションを起こすのだとすれば、YNKは都内屈指のイノベーションエコシステムを形成し得る要素を持ち合わせているのではないだろうか。
江戸城下であったYNKのエリアには、日本全国からものづくり職人などが集まり、江戸城や武家屋敷で使用する畳や襖、武具などが生産されてきた歴史がある。襖には絵が描かれることから、日本画史における最大派閥「狩野派」がその拠点を設けたほか、歌川広重など多くの浮世絵画家も居住し、芸術文化が花開いた場所としても知られる。
そのまちの文化的素養がかの魯山人をも惹きつけ、店を構えさせた。そしてその店の周辺にはアートギャラリーや古美術商などが軒を連ね、骨董通りとして現在まで賑わいを見せている。創業60年以上の老舗飲食店が多数集まり、その味を引き継ぐ次世代の職人たちが、スタートアップをはじめとした企業らと手をとり、食の課題解決に向けて挑戦をしはじめている——。
そうした背景を受け、Forbes JAPANは今回、技術も才能も集まり、新たな文化を受け入れる寛容さを持ち合わせたこのエリアのポテンシャルに注目。「ようこそ、世界に誇る縁(えにし)エコシステムへ」と題し、YNKが形成するイノベーションエコシステムの可能性を探る一冊としてまとめた。
京都大学前総長/現総合地球環境学研究所所長で、ゴリラ研究の第一人者である人類学/霊長類学者の山極壽一は、巻頭対談の中で、YNKの可能性をこう指摘している。
「ヒトは神から地上の支配権を与えられているという西洋の感性と比較して、天と地には『間(はざま)』があり地続きであるという感性が日本人の精神の奥底にはあって、それは木から下りて地上で動き回るようになったサルから人間が受け継いだ感性でもあると思うんです。だからこそヒトは横のつながりを重視してきたし、(江戸時代にこの土地で形成された)長屋のようなあり方はそれを表しているといえますね。それを考えると、高層ビルとかつての東京の精神生活が混在する八重洲・日本橋・京橋周辺は、両者とも異なる世界のつながりを大事にした場所にしていけるかもしれない」(本文より)
YNKで生まれる「つながり」の可能性とはどのようなものなのか。本誌では「歴史」「人々」「文化」「ものづくり」「まちづくり」という5つの視点から、探っていく。
数年後には様変わりするこの街の扉を、いち早く開いてみてはいかがだろうか。