教育

2023.02.16 16:30

組織的、計画的、文殊の知恵。10ジャンル同時ブレスト

イラストレーション=尾黒ケンジ

イラストレーション=尾黒ケンジ

何か新しいことを始めるときにしばしば行われるブレインストーミング、通称ブレスト。初期段階での発散や方向性の整理にはもってこいの手法として多用している方も多いのでは。今回は、新しいかたちのブレストをご提案。もっと効果的でみんなが活躍できる、ブレストのアップデート版。お試しあれ。

さかのぼること7年前、電通Bチームの黎明期。僕らのうわさを聞きつけたA先輩が、デスクにふらっとやってきました。「マイナンバーカードについて調査研究したいのだけど、相談してもいい?」。さて、この件、どう料理しようかな。「もちろんです〜」と返事する数秒の間に、出した結論はこうでした。「Bチームの“定例”に来ませんか? 毎回10人以上の違うジャンルのリサーチャーが来るので、そこでみんなに話してはどうでしょう」

改めて説明すると、電通Bチームは本業(A面)以外に、B面=副業、趣味などの個人的な側面をもつ社員が集まる特殊チームです。定例では、毎回10〜15人くらいがランダムに集まり、各自のB面からの最新情報をもち寄ってシェアします。つまり毎回顔合わせが違う多ジャンル情報シェア会(現在改編中)。そこに課題を投げ込めば、多視点で気に解けるのでは? と思ったのです。

さて、その月の定例に、予告通りA先輩が現れました。まずは15分ほど、先輩からのオリエンタイム。マイナンバーとは? マイナンバーカードとは? 続いて、調査研究の悩みについて聞きました。

そして課題解決タイムへ。まずは手始めに、僕の隣にいた、小説家として活動する後輩Xに振ってみました。「マイナンバーカード、小説家的にはどうかな?」。Xが話し始めるには……。「マイナンバー的な番号制度は、SFの世界ではけっこう出てきます。日本でも50年くらい前の小説に出てきていて、登場人物はマイナンバー的制度のせいで失敗しています。映画でも結構出てきますし、そういうSF作品における成功例・失敗例をまとめたらどうでしょう?」

面白い。超メモるA先輩。次に、エクストリームスポーツ担当の後藤に振ってみました。彼は特に山に強いので「山的にはどうなの?」と。「山的にはですね……」と数秒考えたのち、こんな答えが。

「去年、兵庫県では山での遭難が108件ありましたが、そのうち登山届を出していたのが3件だけ。御嶽山の噴火直後だったのになぜか? それは、ハガキで出さなければいけないから。なので、登山口や山小屋にリーダーを設置して、マイナンバーカードで認証すれば届出完了! ってどうですかね?」

これまた面白い。ものの5分で、2案、すごくいいアイデアが出てきました。こんな感じで、自分のリサーチテーマ順に1人1案ずつ発表していくと、あっという間に違う切り口の、かなりのレベルのアイデアが、あれよあれよと出てきました。A先輩は「助かった〜」と大満足でしたが、その場にいたBチームメンバーも僕も大満足でした。

「このやり方は、面白い」。その日からこれを「10ジャンル同時ブレスト」と呼び始めました。その後、いろんな企業からの相談が来た場合には、「何担当とブレストしたいですか?」と指名制にし、実際にその後コンビニに並んだ商品も、この多ジャンルブレストから生まれたりし、Bチームの1、2を争う定番メソッドへと成長しました。

ブレストを会社でやると、量が出たとて、結構同じ切り口だったり、案が似ていたりなんてことがある。外部の有識者をブレストに呼んでも、その時間でひとつの方向からしか掘れない。それに対し、10ジャンル同時ブレストは、多視点で一気にアイデアを量産できます。セレンディピティの応酬。早くたくさん、意外なアイデアが出る。そして、自分とみんなが得意なことが生きるから楽しい。「好きこそ物の上手なれ×文殊の知恵」が実現するのです。

この写真の日に集まった担当は、 プロダクトデザイン、インスタ、健 康、教育、ファッション他。
この写真の日に集まった担当は、 プロダクトデザイン、インスタ、健 康、教育、ファッション他。

いまはこのBチームの担当図を見 せながら、依頼主と何担当とブレ ストしたいかをヒアリング。
いまはこのBチームの担当図を見 せながら、依頼主と何担当とブレ ストしたいかをヒアリング。

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文=倉成英俊 イラストレーション=尾黒ケンジ

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