DX人材教育に1000億円の投資
こうした雇用慣行を背景に持ちながらも、企業は大きく変革の歩みを進めています。三井化学は、国内グループ会社の全社員1万1000人を対象に、デジタルトランスフォメーション(DX)教育に取り組んでいます。人工知能(AI)や量子コンピューターなどデジタル技術を駆使し、新素材を効率よく見つけ出す技術が必須となりつつある中で、研究開発の加速や新しいビジネスの創出を目指す同社は、2030年までに、人材教育を中心としたDX関連投資に1000億円を投じるとしています。
リアルデータを用いたソリューションビジネス
保険事業を展開するSOMPOホールディングスは、国内損保事業や海外保険など同社の主力事業の一つに、デジタル事業を新たに加え、デジタル人材の育成に力を入れています。自動車の自動運転やシェアリングサービスの普及を受け、交通事故のリスクや保険加入者が減少することで損害保険事業が縮小していく未来に備えている同社が、今特に力を入れているのが、「リアルデータプラットフォーム(RDP)」の構築。保険・介護事業を通じて蓄積したリアルデータを分析し、社会課題の解決につなげる同社の新たなソリューションビジネスのサービス提供基盤となるのが、このプラットフォームです。同社グループの既存の事業に精通した社員を、デジタル人材としてリスキリングすることで、新たなビジネスの拡大を目指しています。
日本政府の野心的な投資
こうした企業の勢いに足並みを合わせ、2022年の秋に、日本政府は、リスキリングに今後5年で1兆円を投資すると発表しました。取り組みの第一弾として、個人が民間の専門家にキャリア相談し、リスキリングと転職までを一貫して支援する仕組みの整備を行う計画です。ヒューマンキャピタルを変革の力に
技術革新のたびに、必要なスキルや働き方は変化し、私たちの社会は前進してきました。働く人のリスキリングさえすれば、時代や環境の変化に即した仕事や組織が生まれるわけではありません。企業は、個人が時代の変化に合わせて獲得したスキルを十分に発揮できる環境の整備を、リスキリングの取り組みと並行して進めていく必要があります。組織のあり方や給与体系、仕事のプロセスなども変革が求められるでしょう。人材をリソースやコストではなく、ヒューマンキャピタル(人的資本)として捉え直すこと。このことが、日本の働く未来に希望と可能性をもたらし、デジタル化やグリーン化を基軸とした経済と社会の変革を後押しするでしょう。
(この記事は、世界経済フォーラムのAgendaから転載したものです)
連載:世界が直面する課題の解決方法
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