5年で1兆円投資の日本 いま「リスキリング」を広げる意味

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日本の労働市場は、労働人口の減少、低い労働生産性、地方と都市部間、デジタル格差、過去30年間横ばいの賃金水準など、課題を抱えています。

ある調査では、2030年には、生産職や事務職の人材が210万人過剰になり、専門技術職は170万人不足すると予想されています。

デジタルスキルを持つ人材を中心としたこの需給のギャップの拡大を食い止めるには、余剰となった人材への実効性あるリスキリングが極めて重要です。本題について世界経済フォーラム(WEF)のアジェンダからご紹介します。


人の価値を高めていくこと。これは、イノベーションの力がますます試される変化の激しいこの時代に、国としての経済力を維持ながら、企業が価値を高めていくために、最も必要なことの一つです。人を中心に据え、人を生かした変革を起こしていくためには、リスキリングが欠かせません。

企業のデジタルトランスフォーメーションへの取り組みと、自動化の加速に伴い、リスキリングへの関心は世界規模で高まりを見せてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大による、働き方の多様化とデジタル化の需要の急拡大が、リスキリングを今の時代に必要不可欠なものとしました。 世界経済フォーラムは、2030年までによりよい教育、スキル、仕事を10億人に提供するためのイニシアチブ「リスキリング革命」を2020年に発表して以来、350を超える組織と連携し、仕事の未来に求められるスキルを持つグローバル人材の育成に取り組んでいます。

日本の労働市場が抱える課題

少子高齢化に伴う労働人口の減少、低い労働生産性、地方と都市部間、大企業と中小企業間のデジタル格差、過去30年間横ばいの賃金水準など、日本の労働市場が抱える課題は、相互作用し複雑化しています。 2030年の日本の生産年齢人口は2020年比で92%、2050年には68%と、人手不足の深刻化は避けられないことが予測されています。

三菱総合研究所は、2030年には、これまで日本の労働人口の多くを占めていた生産職や事務職の人材が210万人過剰になり、専門技術職は170万人不足すると推計。デジタルスキルを持つ人材を中心としたこの需給のギャップの拡大を食い止めるには、余剰となった人材への実効性あるリスキリングが極めて重要なカギとなることは明らかです。




政府や多くの企業が、より積極的にリスキリングに取り組み始めていますが、一般的に労働者への浸透度はまだ浅く、認識に温度差があるのが現状です。その理由の一つに、日本の労働に関する慣行や人事制度に根差す構造的な要因があります。従来、多くの日本企業は、終身雇用制度や年功序列の賃金体系を取ってきました。職種や職務を限定せずに新卒を一括採用し、ジョブローテーションでさまざまな職種を社員に経験させるのが一般的であるため、働く個人は、自分のキャリアや専門性を戦略的に積み上げる必要を感じづらい傾向があると考えられます。
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文=Naoko Kutty, Digital Editor, World Economic Forum

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