キム・ジュエ氏を巡る形容詞は、最初は「愛するお子様」、2度目は「尊貴なお子様」だったが、2月7日に北朝鮮軍将官の宿舎で開かれた記念宴会に出席した際は「尊敬するお子様」になった。朝鮮中央通信の英語版をみると、最初の「愛するお子様」と2番目の「尊貴なお子様」は、英語版では同じ「beloved daughter」だった。要するに、「尊貴な」という表現は、北朝鮮独特のもので、「愛する」と特に変わらないということだろう。ただ、「尊貴な」は、金正恩氏の祖母、金正淑氏について使われた形容詞だ。金正淑氏は、金日成主席、金正日総書記と並ぶ「白頭山三大将軍」と呼ばれる。キム・ジュエ氏を金正淑氏と同列に扱い、父親の金正恩氏の歓心を買ったのだろう。
そして7日の宴会では、キム・ジュエ氏が最高指導者の父親を脇に押しやり、北朝鮮軍の将校や父母に囲まれて、中央に座っている写真が公開された。北朝鮮で最高指導者を巡る報道をする際、厳守される決まり事の一つに、演出上の狙いがない限り、必ず最高指導者を写真や映像の中心に据えるというルールがある。このルールを破ったのは、キム・ジュエ氏が初めてだろう。8日の軍事パレードの写真でも、キム・ジュエ氏を中心に据えた写真が何枚もあった。そもそも、主席壇に公式の席が準備されたのは、最高指導者の親族としては、かつて金日成主席とともに出席した金正日総書記、金正日総書記ともに出席した金正恩氏のほかは、今回のキム・ジュエ氏と母の李雪主氏が初めてだろう。正恩氏の実妹、金与正氏ですら、主席壇では後方の「黒衣役」としての場所しかなかった。
ただ、キム・ジュエ氏は後継者ではないだろう。金日成主席のフランス語通訳を務めた高英煥・元韓国国家安保戦略研究院副院長は「キム・ジュエが後継者だと判断すれば、北朝鮮のエリートたちは、正恩氏より若いキム・ジュエの前に列を作るだろう。正恩氏は、権力の分裂を招くようなことをしないはずだ」と語る。現在、白頭山血統と呼ばれる金正恩氏の一族で公職を与えられているのは金正恩氏と金与正氏の2人だけだ。