スポーツ

2023.02.15 18:00

ワールドカップで優勝できないブラジル「芸術サッカー」の混迷

稲垣 伸寿
昨年のワールドカップで、セレソンはやはり準々決勝で姿を消した。後任監督はなかなか決まらず、ブラジルのメディアで有力視されたのはレアル・マドリーのイタリア人指揮官カルロ・アンチェロッティだった。アンチェロッティは、レアルとの契約があると何度も否定したにも拘わらずにもだ。

かつて、知り合いの代理人にセレソンにブラジル国内のしがらみのない外国人監督を起用すれば簡単に優勝するのではないかと提案すると、そんなことできるはずないだろうと、一笑に付されたことがあった。しかし時代は変わった。

ただ1つ、変わらないことは、このブラジルから次々と新たな才能が生まれていることだ。

かつてロビーニョやジエゴ、そしてネイマールとガンソなどが、10代の青い果実の時代にピッチへ送り出されたときと同じ光景を、ぼくはスタジアムで観た。今回はパルメイラスのフォワード、16才のエンドリッキの才能に瞠目することになった。

ピッチのなかでのエンドリッキには、すでに周囲が一目置く風格がある。自分にスペースがあるときにはボールを持ち、相手が来れば、安全な場所にいる味方にパスを出す。隙間があれば一気に速度を上げてゴールに向かう。

ブラジル人が良く使う言葉で言えば「試合をよく知っている」選手だ。年齢的には日本では高校生に当たるのだが、まったく比較にならない。完全に大人の、そしてワールドクラスの選手だ。彼は年齢制限が解ける2024年夏からレアル・マドリーでプレーすることになっている。

パルメイラスのフォワード、エンドリッキ(Getty Images)

パルメイラスのフォワード、エンドリッキ(Getty Images)


約10年前、故ソクラテスがブラジルサッカーの現状を嘆いた言葉を思い出す。

「ブラジルのテレビ局は自国の選手がプレーする欧州リーグの映像を高く買っている。まるでカカオを輸出して、チョコレートを輸入しているようなものだ」

街中に、瀟洒なチョコレートショップであるショコラテリアは増えたが、有望なサッカー選手を熟す前に売り払うことは続いている。

文=田崎健太

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