スポーツ

2023.02.15 18:00

ワールドカップで優勝できないブラジル「芸術サッカー」の混迷

稲垣 伸寿
現地での取材で会ったジーコも、ぼくにはっきりとこう言った。

「ロマーリオとベベットという決定力のある2人を前に置いて、後の選手は守る。あれがサッカーといえるのかい?」

ジーコは鹿島アントラーズの現役引退直後だったためか、まだ湯気が立っているような状態で、口から出る言葉は尖っていた。

1994年のセレソンは、ジーコの指摘するようにロマーリオとベベットという2人のフォワードは攻撃に専念、中盤の選手のドゥンガたちは守備を固めた。そして効果的に得点を挙げた。そのサッカーをジーコは批判したのだ。

ブラジル人が本当に愛するサッカーは「フッチボール・アルチ」である。直訳すれば「芸術サッカー」となる。中盤からパスを繋いで、相手を翻弄し、華麗に得点を決める。その象徴が、ジーコがいた時代のフラメンゴというクラブチームだった。

「黄金のカルテット」と称された、ジーコにソクラテス、ファルカン、トニーニョ・セレーゾの1982年ワールドカップのセレソンもその延長上にあった。

ただ、美しいサッカーは勝負弱い。特に守備を固め、カウンター攻撃を得意とする相手にはあっさりと負けることがある。1982年大会のイタリア戦がそうだった。フットボール・アルチという軛(くびき)があったから、24年間も優勝できなかったとも言える。

1994年時点で、ジーコの見方は、かなり支持されていたように思えた(それに苛立ったロマーリオとジーコは衝突を起こすことになる)。

「アリアンツ・パルケ」スタジアムの入口にはパルメイラスの歴代のロゴが掲げられている

「アリアンツ・パルケ」スタジアムの入口にはパルメイラスの歴代のロゴが掲げられている


新たな才能も生まれているが

ブラジルは、日本と韓国で行われた2002年のワールドカップで優勝した後、低迷期に入った。2006年大会のロナウジーニョ、ロナウド、カカ、アドリアーノたちが揃ったセレソンは、フットボール・アルチに近かった。しかし、準々決勝でフランスに敗れた。

続く2010年の南アフリカ大会でも、やはり準々決勝でオランダに敗退した。ブラジル人の誇りをこなごなにしたのは、いまから8年半前、地元ブラジルで行われた2014年のワールドカップ準決勝でドイツに1対7で完膚なきまでに叩きのめされたことだった。そのときのドイツは結果だけでなく、内容でもブラジルを凌駕していた。

2014年ロシアワールドカップ、ドイツ戦の様子

2014年ロシアワールドカップ、ドイツ戦の様子(Getty Images)


今回、ブラジルのサッカーを俯瞰して感じるのは、彼らが自信を失っていることだ。その証左の1つは、有力クラブチームの監督に外国人が増えたことだ。

今年のブラジル全国選手権一部リーグの開幕時点で20チームのうち、実に10人が外国人監督。その内訳は、ポルトガル人が7人、アルゼンチン人が2人、ウルグアイ人が1人。名門クラブとされるフラメンゴ、パルメイラスの監督はともにポルトガル人だ。かつてはあり得なかった。
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文=田崎健太

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