心ある見学者は、何かしらの貢献をしたい思いに駆られるはずである。その受け皿を準備することが求められるだろう。入館料を求めないサイトもあるが、少なくないコスト・願いを投入した施設である。ありがたくいただけばよろしいのではないか、と思う。加えて、たとえば海岸沿いの防風林再生への寄付ができるようになれば、全体としてカーボンニュートラル(ネガティブ)・ツーリズムとして位置づけることも可能ではないか。
次回のG7科学技術大臣会合(2023年5月仙台市で開催)では、建設中のナノテラス((次世代放射光施設)に加えて、荒浜小学校震災遺構が視察行程に組み込まれるべく申請された、と聞いた。もし実現するならば素晴らしいことと考える(荒浜小学校は、2016年6月のG7財務大臣・中央銀行総裁会議でも視察先となっている)。
震災遺構の価値を高めるためには、今後海外の方々、同じように震災津波が襲う国の方々からの共感を得る工夫も問われることになるだろう。「まなびの観光」の拠点として、修学旅行や社会見学の必訪地として指定するなどの活性化施策も有効であろう。
震災遺構は観光資源たりうるか。すでに重い役割を背負っており、また、その役割を果たすポテンシャルは十分にある、と筆者は考える。
松岡基嗣(まつおか・もとつぐ)◎日本政策投資銀行 東北支店長。財務部次長兼財務課長、DBJシンガポールCEOなどを経て現職。
日本経済研究所◎日本政策投資銀行(DBJ)グループに蓄積された知的財産・ネットワークを広く社会に還元していく公益シンクタンクとして、時代の経済面の課題に対する調査研究を行う。「先人の研究精神を受け継ぎ、『現状を分析しつつ、経済のダイナミズムの中にある本質を見極める洞察力』こそがもっとも必要なこと」とは、同所理事長/元日本政策投資銀行代表取締役社長 柳正憲氏の言葉である。
日経研月報◎日本経済研究所が発行する月刊機関誌。講演要約記事を中心とする「特別記事」や、内外経済、産業動向、地域振興等に関する連載、統計資料等を掲載する。