「女性起業家への投資比率20%」を公言し、達成した有言実行力

ベンチャーキャピタリストの佐俣アンリ

95対5。日本のスタートアップ業界の男女比は、あまりにも不均衡だ。その数字に、ほんの3年前まで「恥ずかしい話ですが、違和感がなかったんですよね」。38歳のベンチャーキャピタリスト、佐俣アンリは「格好よくない話」と前置きしつつ、そう切り出した。

きっかけは3年前、社内の若手女性メンバーに「あなたは間違っている」と指摘されたことだった。男性のベンチャーキャピタリストが男性起業家ばかりをジャッジするこの世界はおかしいと言われ、「最初は何を言っているんだ、と思った」。上の世代の価値観が当たり前とされた社会で、それにのっとってVC事業を運営してきた。だが、若手の新しい価値観に触れ、運営するANRI1〜4号ファンドの女性起業家比率が5%にも満たないことに、次第に違和感を覚えるようになった。

2020年11月、佐俣は「女性が代表を務める企業への投資比率を最低でも20%以上に引き上げる」と宣言。22年7月末には、4号ファンドの投資企業98社のうち、女性の会社は20社となり、目標の20%を上回った。課題を公表し、自らを追い込んだことで、約1年半で達成に至った。

「ただ『頑張るぞ』と言うのでは意味がない。95対5という不均衡を崩すには、具体的な数字を掲げ、全員一丸となって挑戦するしかない」

これまで、女性起業家がいなかったわけではない。むしろ、自分たちが女性起業家から選ばれてこなかったのだ──3年前を振り返り、佐俣は言う。「10年以上やってきた自分の仕事を、恥じないといけない瞬間が結構ある。いまとなっては、よくない時代に導いていたと反省しています」。22年に設立した400億円規模を目指しているANRI5号ファンドでも、目標を20%以上に定めた。

「マイノリティがマイノリティだと感じなくなる割合は、一般的には3割だといわれています。3割に近づけることを目標に、とにかくやってみる。青臭いことを真顔で言いますが、大事なのは、一歩踏み出すことです」

新しい価値観を受け入れ、未来のためにできることを実行していく。このポジティブアクションは、自分の責務だと感じている。


さまた・あんり◎1984年、埼玉県生まれ。慶應義塾大学卒業後、EastVenturesを経て2012年にANRIを設 立。220社に投資を実行、約610億円のファンドを運用中。著書に『僕は君の「熱」に投資しよう』。

文=中沢弘子 写真=藤井さおり

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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