それから7年後の現在、グーグルは再び同様の立場に追い込まれているが、今回はさらに分が悪い。挑戦者はOpenAIというサンフランシスコの比較的小さなスタートアップで、アマゾンのような資金力のある巨大企業ではない。ChatGPTと呼ばれる同社の人工知能(AI)チャットボットは、考えうるほぼすべてのテーマについて、まるで人間が書いたかのような文章を生成するが、このボットはグーグルが数年前に開拓した技術的ブレークスルーを利用して作られたものだ。
グーグルは2年前にLaMDAと呼ばれる同様の技術を発表していたが、11月にリリースされたOpenAIのボットは、史上最速で1億人の利用者を獲得した。
さらに悪いことに、グーグルの検索分野での主要なライバルのMicrosoft(マイクロソフト)は、OpenAIに100億ドル(約1兆3000億円)を出資し、Bingの新バージョンにChatGPTよりもさらに高度なAIチャット機能を搭載しようとしている。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、その発表イベントで「検索の新時代が始まる」と述べ「レースは今日から始まる。我々は迅速に行動する」と語った。
5年前の「失敗」
グーグルのAI分野での歩みは、倫理面での不祥事や、Duplexと呼ばれる異常なほど人間臭いAIツールに対する反発、相次ぐAI人材の流出などが足かせとなってきた。今から5年前、グーグルは、AIの野望を実現するための一種のカミングアウトパーティーとも言えるものを開催した。その年のI/Oで、ピチャイは、驚くほど人間らしい発音でレストランの予約を代行するAIサービス「Duplex」を発表した。このAIは「あの」「えー」といった具合に人間の口ぶりを真似たり、声を変化させたりして、人間そっくりにプログラムされている。同社は、このツールでオンライン予約ができないレストランに、AIがロボコールをかけるサービスを想定していた。
しかし、Duplexの試みは不評を買った。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、これを「どこか不気味だ」と評し、社会学者で作家のジーナップ・トゥフェックチーはもっと痛烈に「グーグルのAIアシスタントはボットであることを隠して電話をかけ、人々を騙そうとしている」と非難した。彼女はまた「シリコンバレーは倫理的に迷走し、無軌道で何も学んでいない」とツイートした。
グーグルのAIへの取り組みに詳しい同社の元マネージャー2人は、Duplexのエピソードを、同社がAI製品の公開に手間取る環境を生んだ多くの要因の1つに挙げている。