人類の歴史上、初めて人口20万人を突破した都市ともされていて、しばしば「バビロン」という名前は、栄華を誇る都市の比喩として言及されてきた。その響きからは、魅惑的なイメージとともに、繁栄から衰退に至る退廃の匂いも漂ってくる。
1965年、アメリカで「ハリウッド・バビロン」という本が出版された。異端の映画監督ケネス・アンガーの著作で、サイレント時代から1960年代までの、映画の都ハリウッドで語られてきたスキャンダラスなエピソードを扱った内容だ。出版から10日後に販売中止となり、その後10年間、再刊行されることがなかった。
デイミアン・チャゼル監督が、1920年代から30年代にかけてのハリウッドを舞台にした最新作に「バビロン」という題名を冠したのも、高名な古代都市の名前とケネス・アンガーの本が脳裏にあったからと想像するに難くない。
チャゼル監督は2017年の第89回アカデミー賞で「ラ・ラ・ランド」が高く評価され、史上最年少の32歳で監督賞を受賞。「バビロン」では、映画がサイレントからトーキーへと移る時代、映像に音声が加わるという変革期の時代に生きた3人の人物の波乱に満ちたライフストーリーが描かれている。
導入部から続くパーティシーンが圧巻
いまはロサンゼルスでも高級住宅地となっているベルエアだが、1926年にはまだ起伏に富む砂漠のような土地だった。その坂道で1頭の象を載せたトラックが立ち往生していた。映画界の重鎮ウォラックのパーティに象を運ぶ役目を負っていたマニー(ディエゴ・カルバ)だったが、伴走していた自分の車でトラックを牽引して、なんとかこの難事を乗り切る。
マニーはメキシコの出身、映画界で活躍することを夢見て、ウオラックのもとで雑用係のような仕事をしていた。俳優としても通用する容姿を持ったマニーが、冒頭から坂道で象と格闘する姿は、彼の現在の立ち位置を象徴する印象深いシーンだ。巧みな導入部に、いきなり物語へと引き込まれる。