人気数学者が、現代社会を動かす数式とその利用法についてユーモラスな切り口で語る『世界を支配する人々だけが知っている10の方程式―成功と権力を手にするための数学講座』から、読みどころをピックアップする。
自分の悪口を言った女性が「性悪」である確率
大学で新しい授業が始まった。学生のエイミーは、ある悩みを抱えている。誰と仲良くすればいいの? 誰とは距離を置いたほうがいいかしら? 彼女は人を信じやすい性格で、彼女の頭のなかでは、ほかの人々が自分を受け入れて優しくしてくれる映画が流れている。でも、彼女は完璧なお人好しではない。今までの経験から、みんながみんないい人ばかりでないことも知っていて、彼女の頭のなかでは「性悪女」の映画も流れている。おっと、この言葉遣いで彼女の性格を判断しないであげてほしい。口に出しているわけではないから。さて、たまたま隣に座ったレイチェルという女の子と知り合ったとき、エイミーはレイチェルが「性悪女」である確率をかなり低く、たとえば20分の1くらいに見積もった。エイミーが誰かと会うたびに「性悪女」の確率を厳密に設定しているとは思わない。私がここで数値を定めたのは、この問題をとらえやすくするためだ。あなた自身も少し立ち止まって、あなたの知り合いの何割くらいが性悪女かを考えてみてほしい。たぶん20人にひとりもいないと思うけれど、あなた自身で好きな値を選んでかまわない。
初日の朝、レイチェルとエイミーは、ふたりでその講座の学習課題を見直していた。エイミーはそれまでの学校で、その講師が使っている概念を習っていなかったので、細かい点を飲み込めずにいる。レイチェルはエイミーのペースに合わせてくれているけれど、ちょっとだけイライラしている様子が伝わってくる。どうしてエイミーはこんなに飲み込みが悪いの? すると昼食後、恐ろしい出来事が起こる。エイミーがトイレの個室で座り、黙々と携帯電話を観ていると、レイチェルと別の女の子が入ってくるのが聞こえる。
「あの子、本当にバカなの」とレイチェルは言う。「私が“文化の盗用”(ほかの文化の要素を流用する行為。特に多数派民族の人々が少数派民族の文化を、背景を無視したまま勝手に私物化してしまう行為)について説明しようとしたんだけど、ポカンとしているのよ。ボンゴの演奏方法を学ぼうとしている白人のことを言っていると思ったみたい!」