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2023.02.15

アップルの空間オーディオに挑む、WONKが語る「立体音楽制作」の裏側

WONKはアルバム『artless』の制作でLogic Proの空間オーディオ制作ツールを日本でいち早く採用した

空間オーディオでも「ありのままの音楽」を目指す

『artless』の制作に空間オーディオを採り入れるアイデアは、キーボードの江﨑氏による提案だったという。中高生の頃からアップルのスペシャルイベントのオンライン配信を視聴していたという江﨑氏は、自身の楽曲制作にもLogic Proも採り入れている。一昨年にアプリケーションが空間オーディオ対応になり、すぐさまベースの井上氏に次回作での採用を持ちかけた。

井上氏は、当時すでにゲームのサウンドデザイナーとして立体音響の制作を数多くこなしていた。音響制作の機材や先端技術に広く精通する井上氏は、WONKのレコーディングやミキシングのエンジニアとしてメンバーから厚く信頼されている。今回も井上氏がLogic Proによる空間オーディオ制作を一手に担った。

ゲームのサウンド制作に使うツールと、アップルのLogic Proはユーザーインターフェースの設計がとてもユーザーフレンドリーであるところが大きく違うという。初めてのLogic Proによる空間オーディオ制作に、井上氏もまたスムーズに入り込めたと振り返る。

空間オーディオの「音づくり」はクリエイターが目指す方向性次第で、作品や楽曲ごとに大きく変わる。井上氏とWONKのメンバーはどんなサウンドを追い求めたのだろうか。

「アルバム『artless』では、今のWONKによる『ありのままの音楽』をかたちにすることが制作の大きなテーマでした。だから空間オーディオも、どちらかと言えばリアルな音づくりのために活かしています」(井上氏)


ベースの井上幹氏

Apple Musicの空間オーディオ作品の中には、映画館で楽しむアクション映画のサラウンド音声のように「聞こえるはずのないところから音が鳴り、頭上・背後に動いて回り込む」といった、派手なエフェクトによるエンターテインメント性に富むタイトルもある。

このように人工的なエンターテインメント性とは対極にある『artless』の空間オーディオ再生には、リスニングを始めた直後から楽曲の世界に深く入り込み、そこにいつまでも漂っていたくなるような飽きのこない魅力がある。筆者は初めてアルバム3曲目の『Migratory Bird』を空間オーディオで聴いたときに、その心地よさに息を吞んだ。ボーカルとギターによる静かな演奏に始まり、やがてバンドの演奏が重なり合う瞬間から一息に無限の視界が広がるような爽快さが押し寄せてくる。
次ページ > 楽器の生音へのこだわり、打ち込みを活かすこと。どちらもWONKらしさ

編集=安井克至、写真=落合明人

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