Forbes JAPAN SALON

2023.02.27

世の中の景色を変えるために。起業家・投資家として100の文化を創出したい

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アセンブルポイント 代表取締役CEO 宮下崇

アジアの多くの都市では、現在人口の増加と集中、またモータリゼーションの普及に伴う交通混雑と騒音、大気汚染といった数々の問題を抱えている。とりわけフィリピンでは、貧弱な公共交通インフラによって問題が増幅され、大きな社会問題へと発展しつつある。そうしたなか、エコで持続可能な社会創造の一端を担うべく、現地で電動ミニバスの開発に取り組んでいるのが、日本発のスタートアップ企業 ASSEMBLEPOINT(アセンブルポイント)だ。彼らが目指す景色とは一体どのようなものなのだろうか? そのビジョンと根底にある想いを探るべく、代表を務める宮下 崇氏から話を聞いた。


パラレルに広がるキャリアを糧に、未知なる挑戦に挑む


──まず、ご職歴とアセンブルポイント参画に至る背景についてお話しいただけますか?


僕が起業したのは2017年のこと。電子チケットのプラットフォームを開発し、約半年間で売却しました。以来、M&Aのマッチングプラットフォームの開発や子ども向けのイラスト・デザインの教育、ベンチャーキャピタルなど合計4つの事業を立ち上げ、エグジットしてきました。その一方で、投資家としてのエンジェル投資も積極的に行なっています。これまで、クラシックバレエに特化したスタートアップやITシステム開発会社、廃タイヤを完全リサイクルするプラント事業など、さまざまな領域で投資を実施してきました。



アセンブルポイントとの出会いは、同社の経営企画室に所属していた知人の紹介でした。当時代表を務めていた栗原省三氏からプレゼンを受け、とんでもないことをやっている会社だなと驚嘆したんです。平均年齢が70歳を超えるチームが、東南アジアでEV(電気自動車)をつくっている。しかも、すでに公道を走るところまで来ているとは驚きましたね。しかし同時に、なぜこんなにすごい会社をこれまで知らなかったんだろうとも思いました。いくら良い事業であっても、世間に認知されなければ価値は付きにくい。彼らがもつ価値に、僕がこれまで培ってきた経験を組み合わせれば、もっとすごいことが成し遂げられるはず、と考えたのです。

アセンブルポイントは、単なるEVの販売代理店ではありません。企画から製造・販売までを一貫して行う姿は、まさに自動車メーカーそのものです。僕が自動車メーカーを経営することになるとはまったく想定していませんでしたが、だからこそ人生をかけてチャレンジしてみたいと思ったんです。

──宮下さんはこれまでITや教育など、主にソフトに関する事業に携わってこられたわけですが、ハードを扱うことに抵抗はなかったのでしょうか?

これまでのキャリアは、一見シリアルであるように見えますが、実はパラレルに広がって立体的に絡み合っているんです。例えば、起業家であり投資家でもあると、双方の視点から物事を考えられるため、相手の言葉の裏にある意図を読み解きやすい。同様に、無形と有形の両事業から得た経験を掛け合わせれば、シナジー効果が得られるのではと考えました。



確かに、ハードウエアは僕にとっては未知の領域でした。しかし、未知だからこそワクワクするし挑戦してみたかった。僕は、起業家・投資家として100の文化を創出したいという想いでここまで突き進んできました。だからこそ、アセンブルポイントが今後世の中に残す文化の大きさを考えると、いまもワクワクしますね。

バッテリーが乾電池のように交換できる!? 「Smart BUS」のユニークネス

アセンブルポイント社提供

アセンブルポイント社提供


──「Smart BUS」(以降SB)はフィリピンで生産され、フィリピンの道を走り、まさに新たなEVの文化をつくりつつあります。その特徴とユニークネスについてご説明いただけますか?

SBは、日本発のフィリピンの自動車メーカーです。日本人が立ち上げた会社ですが、製造はすべてフィリピンで行われています。つまり、初めてのMade in Philippinesの自動車メーカーということになります。それにより政府関係者をはじめ、現地の多くの方から協力や支援を受けています。

また最大の特徴は、スワッパブルバッテリーであること。つまり、バッテリーを取り外せて、かつ家庭用のコンセントでも充電ができるんですね。

アセンブルポイント社提供

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昨年、フィリピンではEV事業育成産業法律が制定されました。これは日本でいうところのEVの補助金のようなもの。制定以降、多くの法人がEVに興味を示し始めています。しかし、マニラをはじめとする都市でさえ、未だEVのチャージステーションは見かけません。つまり、ビルトインの蓄電池が採用されているEVを普及させる場合、まず初めにチャージステーションを普及させる必要があるわけです。しかし当社のSBなら、インフラを整えなくてもいい。その点が、SBを普及させるうえでの最大の強みとなっています。

そして、普及を後押ししているもうひとつの要因は、現地のディーラーの多さとアフターセールス体制の手厚さです。フィリピン国内の40店舗を超える販売店とパートナーシップを結んでおり、全店舗でメンテナンスを受けることが可能ですので、顧客は安心して購入できるというわけです。

アセンブルポイント社提供

アセンブルポイント社提供


また、EVでは車両とバッテリーの耐用年数のバランスが取れていないことが指摘されています。しかし、もしも電源を乾電池のように簡単に交換できるとしたらどうでしょうか。車メーカーとしてはバッテリーの技術まで補償せずに済みますし、逆に顧客はバッテリーの劣化具合や経済状況に応じて、自由に選んで交換することができますよね。SBがスワッパブルバッテリーであることは、サプライヤーの技術向上による恩恵を受けられるというメリットもあるのです。

──電池のようにバッテリーを交換するという発想が、目から鱗でした。

スワッパブルであれば、目的地までの距離に合わせて必要な数のスペアバッテリーをあらかじめ車両に積んでおくことができます。そのバッテリー自体も、購入ではなくサブスクリプションになっていくかもしれません。しかも、バッテリーは災害時においては非常用電源にもなり得ます。

現在SBで採用しているバッテリーの出力は、5kwと大きめです。例えばこれを1kwのバッテリーの5個セットに変更できれば、1個抜いて自転車に差すとか、2個抜いてバイクに使うとか、5個抜いて家で使うということも可能になるかもしれません。

我々はEVのチャージャーがなくても普及できるようにと開発を進めていますが、結果的に、この地に足のついた活動が未来のEVのあり様を変えていくかもしれません。

フィリピン、そしてASEAN地域の景色を変える



──フィリピンから始まったSBが世界を変えるかもしれない。そんな大きな可能性を秘めた事業をもっと広めていくために、取り組むべき課題とはなんでしょうか? 

まず、短期的に見ると資本の強化です。ありがたいことに、当社は外部からエクイティ調達をすることなく、現在の量産体制を整えられています。おそらく自動車業界において、資金調達なく公共バスを受注し、公道を走行させているスタートアップは当社だけではないでしょうか。

とはいえ、EV自動車を製造するにあたっては部品を先行して購入することになるため、資金が必要です。現在、年間2,000台を超える注文を控えていますが、その台数を自己資金だけで捌き切ろうとすると、どうしても製造ペースが鈍化してしまいます。そのため、資本面におけるパートナー探しが課題のひとつとなっています。

中長期的なところでは、輸出への取り組みがあります。自動車というのは完成した状態で輸出をすると、大きな関税に悩まされることになります。そのため、パーツレベルまで分解して輸出するSKD(Semi Knock Down)方式を採用し、ASEAN地域への展開を進めていきたい。実際にスリランカやベトナムなど、フィリピンの近隣国からも相談をいただいています。輸出先では、現地パートナーの所有する自動車工場で組み立てを行い、現地パートナーの名前で販売を行うことになるでしょう。SKD方式の輸出による、OEM販売のようなイメージです。



その先で狙うところは、ASEAN地域におけるCLASS1*シェアNO. 1でしょうか。まずは、フィリピンを中心に製造並びに販売事業の土台をつくりたいと思っています。あわせて、IoTバスとしての機能を強化すること。公共バス、商用車の保有する関連データを蓄積していくことで、提携するMaas企業とモビリティにおけるデータの利活用にも取り組んでいけると考えています。

そうした取り組みのなかで、事業をやっていて「良かった!」と思える瞬間は、僕のことを知らない人が、僕のつくったサービスやモノを利用している姿を目にする時です。僕がいたからこそ生まれ得た景色をどれだけつくることができるかが、僕自身のモティベーションになっています。

──フィリピンには、宮下さんのルーツがあると伺いました。

僕の曽祖父は大正時代にフィリピンへ渡り、商店の経営や麻の栽培、林業など複数の事業を展開していました。そして現地の女性と結婚し、祖父が生まれたんです。つまり、僕はハーフクォーターなんです。

曽祖父は戦争によって日本に帰国し、フィリピンで築いた事業はそこで終わりを迎えることとなりました。同じ経営者として、曽祖父の悔しい気持ちが理解できます。なので、いつかフィリピンで事業を行うことで自分のアイデンティティを辿り、曽祖父の成し得なかった事業の先を繋いでいけたらと考えていました。いまのチャレンジも、どこか運命的なものを感じています。

宮下氏が愛用するアンティークのオメガ。「手巻き時計は、自分が生きた分しか動かないというところもロマンがあっていいですよね」と宮下氏

宮下氏が愛用するアンティークのオメガ。「手巻き時計は、自分が生きた分しか動かないというところもロマンがあっていいですよね」と宮下氏


──仕事以外で、夢中になっている趣味や息抜き方法は何かありますか?

僕にとっては仕事が趣味のようなもの。休んでいる時間がもったいないので、週末が苦手なんです(笑)。

毎日欠かさないのはトレーニングです。仕事の途中でも走りにいきますし、出張中であっても必ずジムに行きます。かつて陸上自衛隊に所属していたのですが、当時もいまも、健康な身体は何よりも大事な武器です。そして、ビジネスにおいてはスーツが戦闘服。それを格好良く着こなせる身体でありたいですね。

Forbes JAPAN SALONはインスピレーションの源


──Forbes JAPAN SALONのメンバーになった理由と期待することとは?



事業に意識をフォーカスしていると、自分の主観を正しくつくることが時として困難になります。そんな時は、経営者の先輩たちの意見も取り入れて、バランスを整えるようにしています。成功の秘訣は、失敗の中にこそ隠れているような気がするんです。

サロンのメンバーは、ここに至るまでいろいろな経験をされてきた方たちです。彼らの辿ってきた軌跡がまず興味深いですし、その経験を知ることが自分にとってもモティベーションとなり、またインスピレーションの源となります。



自分の人生は、1本の人生に過ぎませんが、先輩方のストーリーをキャッチアップしていくことで厚みを増していけると思うんです。Forbes JAPAN SALONは、自分の人生を豊かにしてくれる、さまざまな気づきを与えてくれる場所であると感じます。

──会員同士で「いつかこんなことが一緒にできたら」と考えるようなことはありますか?

やはり次世代への投資でしょうか。利益を循環させることが、より良い経済状態をつくっていくと考えます。Forbesファンドをぜひ立ち上げて欲しいですね。

起業家は、投資家の支えがあってこそ成長していけます。彼らの課題は資金調達と認知獲得ですから、そこをForbesがファンドとして支援してあげられるといいのではないでしょうか。インキュベーションで生まれたものをグロースさせ、イグジットまで行う。経済圏をつくれたら、Forbesの価値も最大化するような気がします。


みやした・たかし◎2017年に電子チケットのプラットフォームを立ち上げて、半年間でM&Aにて売却。以降、M&Aのマッチングプラットフォーム、子ども向けクリエイティブスクール、ベンチャーキャピタルなどをゼロから立ち上げて4回のイグジットを経験。エンジェル投資家としてもクラシックバレエのプロ育成事業、廃タイヤの完全リサイクルプラント事業、システム開発会社などに参画。2022年、アセンブルポイントの株式を取得し、代表取締役社長に就任。

Promoted by Forbes JAPAN SALON / interview & edit by Shigekazu Ohno(lefthands) text by Kaori Kawake(lefthands)/ photographs by Takao Ota

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