長崎県のNBCラジオの番組で、2月8日夕方、こんなコメントが流れてきた。
声の主はチョコライターとして活躍する佐賀県鳥栖市出身の荒木千衣(ちえ)さんだ。荒木さんは出版社の社員で、老舗の東洋経済新報社に勤務し、雑誌・書籍やオンライン媒体のマーケティング業務に携わっている。筆者の前勤務先の後輩だ。
2016年から「毎日チョコ生活」というブログを通じて情報を発信している。Webサイトなどへの記事出稿も多い。昼休みの時間帯や週末を利用して執筆活動に勤しむ。ときには出勤前に原稿を仕上げることもある。
情報を発信し続けるうちに、取材も舞い込むようになった。当初は断っていたが、今では「チョコのため」と割り切って、メディアやイベントへの出演もこなす。そして、健康維持のためジムにも通う。
だが、チョコライターはあくまでも副業。「一定の距離を保ってチョコと接している。本業にするともっと稼がなければならないという邪念が出てきてしまうから」と荒木さんは基本姿勢は崩さない。忙しい毎日を送っているのは想像に難くないが、「たとえ無謀でも、本気で取り組んでいるのであればできる」と意欲的だ。
チョコづくりに携わる人々への感謝の思い
チョコの専門家としての道を歩むきっかけは2016年に、ある食事会に参加したことだ。その席で耳にした「1万人に1人よりも、100人に1人を目指すほうが時代に合っている」との話が「本業以外にも強みを持ちたい」との思いを後押しした。特定の分野で「100人に1人」になるためのターゲットは3つだった。アイスクリーム、歩道橋、そして、チョコ。「いずれもブルーオーシャンで、まだ知らないことが多くあるジャンルだと思った」と荒木さん。最終的にチョコを選んだのは「味の幅が広く、形状も変わるなど種類が豊富」だったからで、「食べるだけではなく、カカオの歴史などを調べていても飽きない」と語る。
以来、食したチョコはなんと6400種類を超える。おいしいチョコを求めて国内だけでなく、メキシコ、キューバ、バルト3国などへも足を運んだ。
印象に残っているのはキューバの専門店での光景。そこで出されたチョコレートドリンクはキンキンに冷えていておいしかったのだが、テーブルには砂糖の入った容器が置かれていた。地元の来店客は甘いドリンクに大量の砂糖を入れて飲む。「砂糖大国」の人々の行動には驚いたという。
これまでチョコにかかったおカネは購入代金に加え、海外行脚の渡航費なども含めると計250万円以上に達する。毎月の給料から一定額を強制的に「チョコ貯金」として天引きしているほか、衝動買いを避けたり、自炊をしたりするなど節約に努めることで費用を捻出する。
荒木さんが数多のチョコに注ぐ視線に通底するのは、原料のカカオ豆生産者らへの感謝の思いだ。購入するのは多くがフェアトレード認証製品。チョコの転売などが横行する現状には、「これでいいのか」と疑問を抱く。世界有数のカカオ豆生産国であるアフリカのコートジボワールでの児童労働の問題にも心を痛める。
ベトナムで栽培されているカカオの木のオーナーにもなった。「定期的に送られてくるレポートを通じてその成長を見ることで、「木を育てる人や輸入業者、チョコの生産者など多くの人がチョコづくりにかかわっていることを実感する」と荒木さんは言う。